近年、インターネット上で動画をダウンロードして楽しむことができるストリーミングサービスが急速に広がっています。NetflixとAmazonプライムビデオの二大巨頭が市場を独占している状況下で、HJホールディングス株式会社が運営する動画配信サービスである「Hulu」は業界第3位として苦戦を強いられていました。
Huluは、シェアを拡大するためにインフルエンサーマーケティングを実施しました。その結果、2018年の中頃にはユーザー数が800万人に増加し、2019年のユーザー数は2,500万人を突破しています。
Huluは複数のインフルエンサーマーケティングキャンペーンを展開しましたが、その中でも大成功を収めたのが、スポーツアスリートとタイアップした「Sellouts」というインフルエンサーマーケティングキャンペーンでした。
今回は、Huluの飛躍に大きく貢献したSelloutsキャンペーンについて詳しく紹介します。
目次
インスタグラムを活用したSelloutsキャンペーン
Huluの競合であるNetflixは、インスタグラムの公式アカウントに1,500万人という膨大な数のフォロワーを持っていました。対して、Huluのフォロワー数は39万9,000人という状況でした。
Huluは、Selloutsキャンペーンと呼ばれる長期的なインフルエンサーマーケティングを実施するにあたって、複数のアスリートインフルエンサーとタイアップしました。
このSelloutsインフルエンサーマーケティングキャンペーンは、NBAスターのDamian Lillardさん、Joel Embiidさん、Giannis Antetokounmpoさんとタイアップし、Huluのスポーツ中継サービスをプロモーションしてもらうところから始まりました。
2019年には、アメリカの女子サッカーチームを含む数々のアスリートが起用されました。
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スポンサー契約をユーモアに変える発想力
Selloutsキャンペーンでタイアップしたアスリート達は、このインフルエンサーマーケティングキャンペーンへ参加した理由について尋ねられた際、率直に「報酬がもらえるから」と答えていました。
インフルエンサーマーケティングにおいて、スポンサードコンテンツ(広告コンテンツ)をインフルエンサーの自発的な投稿のように見せかけようとするブランドは未だに存在します。しかしHuluは、アスリート達とのスポンサー契約を敢えてオープンにした上で、それをユーモアたっぷりのコンテンツにすることで注目を集めました。
以前はブランドとインフルエンサーのスポンサーシップを開示することはデメリットだと考えられていましたが、現在ではスポンサーシップを「開示しないことがデメリット」になりつつあります。
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スポンサーシップをオープンにして透明性を高めることは、オーディエンスに敬意を示すことに繋がります。もちろん、スポンサードコンテンツはすべてのオーディエンスに好かれる訳ではありませんが、インフルエンサーマーケティングにおいて透明性を高めようとする動きは年々高まり、ソーシャルメディアのメインユーザーである若年層は、企業に対しても透明性のある経営を求めています。
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Selloutsキャンペーンの詳細
インフルエンサーマーケティングキャンペーンの目的
・Huluのスポーツ中継チャンネルの認知度向上
・動画ストリーミングサービスを利用していないオーディエンス間での話題拡散
・型にはまらないユーモア溢れるキャンペーンによるエンゲージメントの獲得
プラットフォーム
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- インスタグラム
インフルエンサー
NBAとナショナルサッカーチームのアスリートなど19名のインフルエンサー
インフルエンサーの一例:
バスケットボールプレイヤー
Damian Lillard (@damianlillard)
Joel Embiid (@joelembiid)
Victor Oladipo (@vicoladipo)
サッカープレイヤー
Carli Lloyd (@carlilloyd)
Julie Ertz (@julieertz)
Megan Rapinoe (@mrapinoe)
・#HuluHasLiveSports、#TeamHuluSelloutsなどの共通ハッシュタグを使用
・キャンペーンに参加した女子サッカー選手のほとんどが4つのコンテンツを発信
・コンテンツのキャプションには共通のテンプレートを使用
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Selloutsキャンペーンのコンテンツ
Selloutsキャンペーンでは、タイアップしたアスリート達が、「Huluにはスポーツ中継があります」というキャンペーンフレーズを個性溢れるコンテンツでPRし、高いエンゲージメント率を達成しました。
バスケットボールのJosh Okogie選手
米国プロバスケットボールのチームであるミネソタ・ティンバーウルブズのJosh Okogie選手は、インスタグラムに6万9,000人のフォロワーを持つインフルエンサーです。
Huluの記者会見を模した会場で、Okogie選手が「Huluにはスポーツ中継があります」と言う度にお金が投げ込まれるというユニークなコンテンツを投稿しました。
Okogie選手のコンテンツは19.96%という驚きのエンゲージメント率を達成し、今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンにおいて最も高い数字となりました。
バスケットボールのDamian Lillard選手
Damian Lillard選手は、今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンに参加したインフルエンサーの中で最も多い600万人以上のフォロワーを持つ「メガインフルエンサー」です。
彼のコンテンツは、「Huluにはスポーツ中継があります」というフレーズのタトゥーを腕に入れるというコメディー動画で、キャプションでも「Huluがタトゥーを入れるためのお金を払ってくれた」とコメントしており、オーディエンスからは「面白い!」という反応が多く寄せられました。
Damian Lillard選手はインフルエンサーマーケティングキャンペーンを通じて3つのコンテンツを投稿し、3つ全てがSelloutsキャンペーンのメッセージに沿ったものでしたが、結果はあまり良いものではありませんでした。上記の動画コンテンツはエンゲージメント率が0.39%となっています。また、最も反応が良かった、Huluとのスポンサーシップの契約書を掲げた写真コンテンツが75,859件の「いいね!」と812のコメントを獲得し、エンゲージメント率は1.32%という結果になりました。
バスケットボールのJoel Embiid選手
バスケットボールのJoel Embiid選手は、今回のキャンペーンに参加したインフルエンサーの中でフォロワーが2番目に多いインフルエンサーでした。彼のスポンサードコンテンツでは、Huluとのスポンサー契約にサインをした書類を掲げています。
契約書には、「Joel “Hulu has live sports” Embiid」と書かれ、「Huluにはスポーツ中継があります」というキャンペーンフレーズをミドルネームのように使って笑いを誘いました。このユーモア溢れる投稿には、今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンにまつわる全てのハッシュタグが付けられました。
Embiid選手は上記の投稿を含む2つのコンテンツを投稿し、220,577件の「いいね!」とコメントを獲得し、エンゲージメント率は6.36%という結果になりました。
同じくSelloutsキャンペーンに参加したメガインフルエンサーのDamian Lillard選手は600万人のフォロワーを擁していますが、それよりも200万人以上フォロワーが少ないEmbiid選手のコンテンツが「いいね!」とコメント数を上回りました。
女子サッカーのTobin Heath選手
Tobin Heath選手は、ホテルの部屋でスーツケースを開封するコンテンツを発信しました。スーツケースには、「Huluにはスポーツ中継があります」のフレーズが書かれた紙と共に現金が詰め込まれ、投稿のキャプションで「Huluにインセンティブをもらった」と説明しています。
約50万人のフォロワーを持つ彼女が発信した4つのコンテンツは26万回以上再生され、44,903件の「いいね!」と481件のコメントを獲得し、エンゲージメント率は8.83%という結果になりました。
女子サッカーのEmily Sonnett選手
ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグプレイヤーのEmily Sonnett選手は、Huluとのインフルエンサーマーケティングキャンペーンを通じて4つのコンテンツを投稿しました。その中でも、コーヒーを片手にリフティングをしながら、「Huluにはスポーツ中継があります」というフレーズを言う上記のコンテンツが最も高いエンゲージメントを獲得しました。
動画は8万回以上再生され、11,312件の「いいね!」と71件のコメントを獲得、エンゲージメント率は13.54%という結果になりました。
また、彼女のコンテンツには寄付を呼びかける要素も含まれており、「私はHuluのプロモーションをしています。あなたも参加しましょう!リフティングをしながら『Huluにはスポーツ中継があります』と言う動画を撮って、#huluhaslivesportschallengeのタグを付けて投稿してください」とキャプションで呼びかけました。
さらに、Emily Sonnett選手の動画のキャプションには、「集まったコンテンツ1件につき1ドルが、Huluからナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグに寄付されます」と書かれていました。一方的なプロモーションだけではなく、Selloutsキャンペーンに参加することによってナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグを応援することができるというユーザー参加型のコンテンツには大きな反響がありました。
Selloutsキャンペーンの結果
ソーシャルリーチ
インスタグラムのターゲットユーザー数:1,711万人
エンゲージメント
「いいね!」数: 140万6,595件
コメント数:1万480件
閲覧数: 511万8,339件
平均エンゲージメント率:5.71%
HuluのSelloutsキャンペーンは、エンゲージメント率の平均が5.71%と非常に高い結果になりました。インフルエンサーマーケティングキャンペーン全体を通して43のコンテンツが投稿され、タイアップしたアスリートインフルエンサーの中でもサッカー選手陣が平均5.87%という最も高いエンゲージメント率を達成しました。
今回のHuluによるインフルエンサーマーケティングキャンペーンが成功した大きな要因は2つあります。
一つは、小規模インフルエンサーの活躍です。特に、フォロワーが数万人から数十万人のタイアップインフルエンサーが10%代の目覚ましいエンゲージメント率を叩き出すなど、良い結果を残しました。一方で、メガインフルエンサーのDamian Lillard選手は、同じようなテイストの動画コンテンツを展開しましたが、あまり良い成果は得られませんでした。
メガインフルエンサーとのタイアップは、成功するかしないかの賭けになることが多く、小規模インフルエンサーよりも報酬が高額なのでリスクが高いと言えます。
一方、小規模インフルエンサーはメガインフルエンサーよりもフォロワーと密接に繋がっているのでエンゲージメント率が高く、比較的安い報酬でタイアップできるというメリットがあります。
小規模インフルエンサーを上手に活用することで、インフルエンサーマーケティングを成功に導くことができます。
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Selloutsキャンペーンが成功したもう一つの要因は、透明性の高いキャンペーンを実施したことです。インフルエンサーマーケティングを展開しているブランドの中には、インフルエンサーの自発的な投稿に見せかけてスポンサードコンテンツを投稿させようとするブランドがあります。
現在のインフルエンサーマーケティングのトレンドとして「透明性を高めよう」という動きがあるため、Huluを宣伝する代わりに報酬を受け取っているという事実を敢えて公表し、アスリート達がユーモアに変えてコンテンツ化したことがSelloutsキャンペーンの成功に繋がったと考えられます。
今後、インフルエンサーマーケティングを実施する上では、スポンサーシップを隠すのではなく、開示した上でどうオーディエンスにアプローチするかという発想が大切になります。
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まとめ
今回は、Huluの飛躍に大きく貢献したSelloutsキャンペーンについて紹介しました。Selloutsキャンペーンは、エンゲージメント率が高い複数の小規模インフルエンサーとタイアップし、透明性の高いインフルエンサーマーケティングキャンペーンを展開したことが成功に繋がっています。
複数のインフルエンサーとタイアップすることで異なるオーディエンスへのアプローチが可能になり、より多くの人にブランドや商品を知ってもらうことができます。
女優や歌手などの「セレブ」と呼ばれる人たちを複数起用するためには資金力が必要ですが、小規模インフルエンサーであれば始めやすく、エンゲージメントも高いため良い成果が期待できます。
ただし、小規模インフルエンサーは知名度が低いため、自力で探すのが難しいというデメリットもあります。そんな時は、インフルエンサーを希望の条件で絞り込むことができるインフルエンサーマーケティングプラットフォームを活用する方法もおすすめです。
おすすめ記事:サングラスブランド「OAKLEY社」によるアスリートインフルエンサーとのタイアップ事例
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- https://lmnd.jp/blog/oakley_influencermarketing
参考:https://mediakix.com/blog/hulu-influencer-marketing-case-study-instagram/
https://izea.com/2019/04/30/hulu-influencer-marketing/
https://www.wsj.com/articles/hulu-ad-campaign-spells-out-that-its-influencers-get-paid-11550228400