自動車業界は未だに「男性優位」というイメージが根強く残っており、自動車整備士からカーレーサーまで、男性が強い存在感を持つのは事実です。
そんな男性優位の自動車業界を変えつつあるのが、自動車業界で活躍する女性インフルエンサーたちです。女性インフルエンサーは自動車業界にどのような影響を与えているのでしょうか。
今回は、自動車業界が抱える課題と共に、自動車業界で活躍する女性インフルエンサー7名とインフルエンサーマーケティング事例を紹介します。
目次
自動車業界が抱える課題とは?
オーストラリアはアメリカと並ぶ自動車大国で、50のブランドと数千のモデルが市場で競争を繰り広げています。オーストラリアのマーケティング会社「Bauer Media」のセールスディレクターであるFiorella Di Santoさんは、自国の自動車業界の状況について次のようなデータを公開しています。
・自動車の購買の80%は女性が決定している
・オーストラリアを走行する新車のうち45%は女性が運転している
・自動車免許を持っている人口の割合は男性よりも女性の方が多い
Fiorella Di Santoさんは、「これだけ女性が自動車の購買に大きな影響を与えているにも関わらず、自動車業界は未だに男性優位で、メーカーは女性顧客の取り込みに失敗している」と指摘しています。
また、Bauer Mediaが実施した調査で、女性の回答者のうち42%が、「自動車のセールスマンは顧客の気持ちが分かっていない。傲慢だ。」と感じていることが分かっています。59%の女性の回答者は、自身が自動車を購入した経験について、「平均的」「ひどい」と答えているのです。つまり、半数以上の女性顧客が、自動車を購入する際に満足のいく接客を受けていないと感じていることになります。
オーストラリアに限らず、自動車メーカーは、女性顧客の満足度を向上させて自動車の購入を促すにあたってまだまだ克服するべき課題があると言えます。
自動車メーカーが女性客を取り込むにはどうしたら良いのか?
Fiorella Di Santoさんは、自動車メーカーが女性顧客を取り込むためのポイントについてもブログで言及しています。
・感情に訴えかける
女性は自動車のような高額商品を購入する際に他者と繋がりを持ち、自分の決断に安心と自信を持つことを好みます。自動車業界はもっと女性の感情に訴えかけることが必要です。
・ライフスタイルブランドとして振る舞う
自動車メーカーは「自動車ブランド」ではなく、洋服や香水と同じように「ライフスタイルブランド」として評価されつつあります。いくつかの自動車ブランドはその変化に気づき、行動を変えています。
例えば、自動車メーカーのメルセデス・ベンツは、アンバサダーイベントやファッションショー、映画上映などを行うことができる販売店をメルボルンにオープンしました。
このように、自動車メーカーは女性顧客を取り込むために変化を求められています。それを象徴するように、近年、自動車業界では女性インフルエンサーが数多く活躍しています。彼女たちが「男性優位な自動車業界を変えつつある」と言っても過言ではないでしょう。
自動車業界で活躍する7人の女性インフルエンサー
自動車業界では、高級自動車やカーレーシングなど、自動車を専門に活動するインフルエンサーだけではなく、トラベルインフルエンサーなど自動車以外の専門分野を持つ女性インフルエンサーも数多く活躍しています。この章では、自動車業界で活躍する7人の女性インフルエンサーを紹介します。
1. 高級自動車インフルエンサーのAlexさん
オーストラリア出身のAlexandra Mary Hirschiさん(@supercarblondie)は、最も世間に名前が知られている女性自動車インフルエンサーでしょう。Alexさんはインスタグラムに600万人近いフォロワーを持ち、ドバイを拠点に活動しています。
Alexさんは高級自動車の専門家として知られており、自身のテレビ番組も持っています。活動拠点はドバイですが、インスタグラムのフォロワーはアメリカ人が中心です。
オンライン上では、2019年~2020年にかけて、6ヵ月間で次のような成果を上げています。
・2,620万件のインプレッションを獲得
・8億8,400万回の動画再生
・6億8,800万件のポテンシャルリーチを獲得
2. 自動車整備士のBanksさん
Patrice Banksさん(@girlsautoclinic)は、女性のための自動車修理場「ガーズル・オート・クリニック」を営み、女性が自分自身で車の修理をするためのワークショップなどを開催しています。
Banksさんは製薬会社で順調にキャリアを築いていましたが、自動車に強い興味を持っていました。これまで、自動車修理場は女性にとって足を踏み入れにくい場所でしたが、フィラデルフィアに位置するBanksさんの修理場では、女性がマニキュアやペディキュアをしながら車の修理が終わるのを待つことができます。自動車修理場のイメージを覆したBanksさんは、「TED Talk」やTIMESのYouTubeチャンネルなどにも出演している注目のインフルエンサーです。
3. カーレーサーのFloerschさん
Sophia Floerschさん(@sophiafloersch)は、ドイツを拠点に活躍するレーシングドライバーで、インスタグラムに33万人のフォロワーを持つクールな女性です。彼女のフォロワーの42%はドイツ人ですが、インスタグラムでは主に英語でコミュニケーションを取っています。
自分自身のことを「普通の女性です」と語るFloerschさんは、19歳にしてすでに有名なカーレーサーです。彼女のインスタグラムには、レースやトレーニング中の写真だけではなく、同年代の女の子と同じようにメイクやオシャレを楽しんでいる写真や、水着姿の写真も投稿されています。
Floerschさんは、2019年から2020年にかけての6ヵ月間で274万件のエンゲージメントを獲得し、エンゲージメント率は4.5%となっています。
4. フィットネスインフルエンサーのFisherさん
Lauren Fisherさん(@laurenfisher)は、フィットネスプログラムの一つである「クロスフィット」のアスリートで、インスタグラムに119万人以上のフォロワーを持つメガインフルエンサーです。
Fisherさんはオンライン上で非常に知名度が高いフィットネスインフルエンサーですが、 仕事でタイアップするブランドはかなり厳選しており、スポンサードコンテンツは1ヵ月に1度しか投稿しません。
これまでに投稿された33件のスポンサードコンテンツのうち11件は、自動車ブランド「Jeep」とのタイアップコンテンツでした。Jeepはプロアスリートとタイアップすることが多く、フィットネスインフルエンサーとして強い影響力を持つFisherさんはJeepにとって最良のタイアップ相手と言えるでしょう。
5. RedbullとタイアップしたBecky Evansさん
イギリス出身のインフルエンサーであるBecky Evansさん(@queenb)は車が大好きな26歳で、インスタグラムに約10万人のフォロワーを持っています。彼女のフォロワーの91.3%は男性であるにも関わらず、彼女のコンテンツの中で最もパフォーマンスの良い動画は女性に向けられたもので、さまざまな車のレビューをしています。
Evansさんはエナジードリンクの「Redbull」とタイアップし、オンライン上で「Drift Queen」という動画シリーズに出演しました。Redbullとのタイアップは、Evansさんが自身のインスタグラムにビンテージカーの写真を投稿したことがきっかけで実現しました。Evansさんは、「ビンテージカーと私のような若い女性の組み合わせが衝撃的だったようです。」と話します。
彼女のコンテンツは6%という高いエンゲージメント率を誇り、イギリスを中心とした多くのフォロワーを魅了しています。
6. トラベルインフルエンサーのKaren Ramosさん
Karen Ramosさん(@naturechola)は、メキシコ出身のトラベルインフルエンサーです。Ramosさんは砂浜や山といった自然を愛し、キャンプなどを楽しむ様子をインスタグラムにコンテンツとして投稿しています。彼女は自動車メーカーのHondaのパートナーシップを組み、カリフォルニアを旅行中にスポンサードコンテンツを投稿しました。
Ramosさんはインスタグラムに旅の写真を投稿するだけではなく、メンタルヘルスや人種差別、環境問題などについて語り合う場としても活用しています。彼女のように、インフルエンサーマーケティングに「ストーリーテリング」を活用することで効果的にメッセージを届けることができます。彼女のコンテンツは12.5%という高いエンゲージメント率を誇ります。
おすすめ記事:インフルエンサーマーケティングの鍵となる「ストーリーテリング」
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7. ゲームインフルエンサーのSonja Reidさん
ロサンゼルス在住のカナダ人のインフルエンサーであるSonja Reidさん (@OmgitsFireFoxx)はゲームインフルエンサーとして有名ですが、カーインフルエンサーという一面も持っています。
ゲームのプラットフォームとして有名な「Twitch」とのタイアップしながら、カリフォルニアの高級電気自動車メーカー「Karma Automotive」のスポンサードコンテンツも投稿しています。Reidさんのフォロワーのほとんどは白人男性です。
幅広い分野で活躍しているReidさんは、2016年に世界的に有名な経済紙「Forbes」が選出する「30歳未満の30名」に選ばれました。
このように、自動車業界ではさまざまな女性インフルエンサーが活躍しています。
自動車業界で活躍するインフルエンサーは、自動車が専門分野のインフルエンサーだけではありません。自動車メーカーは、自動車以外の専門分野を持つインフルエンサーとも幅広くタイアップすることによって、新たなオーディエンスを獲得できるというメリットがあります。
ただし、RedbullとタイアップしたBecky Evansさんや、ゲームインフルエンサーのSonja Reidさんのように、「フォロワーのほとんどが男性」という場合もあります。「20~30代の女性のみ」など、ターゲットを限定したインフルエンサーマーケティングを展開する際は、インフルエンサーの特徴ではなく、「インフルエンサーが持つフォロワーの特徴」をしっかりと見極めることが大切です。
次の章では、女性ファッションインフルエンサーが自動車メーカーとタイアップしたインフルエンサーマーケティング事例を紹介します。
女性ファッションインフルエンサー × 自動車メーカーのインフルエンサーマーケティング事例
自動車メーカーの「MINIオーストラリア」は、ファッション誌の「Vogueオーストラリア」とタイアップして、インスタグラム上でインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施しました。
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- <pMINIオーストラリアは、ファッション業界で活躍する5名のマイクロインフルエンサーとタイアップすることによって、スタイリッシュなMINIコンバーチブルというスポーツカーの新しい車種のプロモーションに成功しました。
キャンペーンのゴール:
ファッションインフルエンサーを通じてMINIコンバーチブルのスタイリッシュな特徴をプロモーションする。
キャンペーンの戦略:
5人のマイクロインフルエンサーにMINIコンバーチブルをテスト走行してもらい、その体験や車の特徴で気に入った部分をコンテンツ化してもらう。
キャンペーンの結果:
インスタグラム投稿 – 14件
エンゲージメント – 8,319件
コメント数 – 14万7,800件
今回のキャンペーンでは、フォロワー数が10万人未満のマイクロインフルエンサーが起用されました。マイクロインフルエンサーはフォロワーと深い繋がりを持つため、費用対効果が高いインフルエンサーマーケティングキャンペーンを展開できることで知られています。
ファッション業界で活躍する女性マイクロインフルエンサーのフォロワーのほとんどは、ファッションに興味を持つ女性です。MINIオーストラリアは、ファッションという自動車とは全く異なる分野で活躍するインフルエンサーとタイアップして、「ファッションに興味を持つ女性」という新しいターゲット層へのアプローチに成功しました。
インフルエンサーマーケティングを成功させるためには、フォロワーが多いインフルエンサーではなく、ブランドのターゲット層をフォロワーに持つインフルエンサーとタイアップすることが大切です。今回の事例のように、自動車業界は女性インフルエンサーとタイアップすることによって潜在顧客の幅を効果的に広げることが可能です。
おすすめ記事:今後のインフルエンサー選定は「オーディエンス品質」の理解が不可欠
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- https://lmnd.jp/blog/audience_quality_grades
まとめ
今回は、自動車業界が抱える課題と共に、自動車業界で活躍する女性インフルエンサー7名とインフルエンサーマーケティング事例を紹介しました。
自動車業界で活躍する女性インフルエンサーたちは、男性優位な自動車業界の常識を覆し、自動車メーカーと新たな顧客層の橋渡し役になっています。「リーチが難しい」と考えられる顧客層こそ、インフルエンサーマーケティングを試してみる価値があると言えるでしょう。
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参考:https://www.traackr.com/blog/7-female-automotive-influencers-changing-the-industry
https://www.marketingmag.com.au/hubs-c/car-manufacturers-still-struggling-satisfy-female-consumers/
https://www.scrunch.com/blog/case-study-mini-australia