「Z世代」と呼ばれる「ジェネレーションZ」は、1996年から2010年に生まれた10代を中心とする年齢層です。この世代は「デジタルネイティブ」と言われ、これまでの消費者層とは、情報収集の方法や価値観、購買行動などが大きく異なります。
Z世代は企業広告を嫌う傾向があり、その事が多くのブランドを困らせています。一昔前までは、「Webマーケティング = ネット広告」でしたが、Z世代はネット広告をブロックするソフトウェアをスマートフォンやパソコンにインストールしているため、これまでの手法はすでに通用しなくなっています。
そんなZ世代にアプローチする有効なマーケティング手法として注目されているのがインフルエンサーマーケティングです。
今回は、インフルエンサーマーケティングを上手に取り入れてZ世代へのアプローチに成功したブランドの事例を5つ紹介します。
Z世代に直接関係がある通信会社のSprintやウォルト・ディズニー社のような企業だけではなく、スイスの高級腕時計メーカーTag Heuerや、美容ブランドOlayなどの企業も、Z世代に早くからブランドを知ってもらうためにインフルエンサーマーケティングに取り組んでいます。
こちらの記事では、Z世代の特徴と、Z世代にインフルエンサーマーケティングが有効である理由について前編と後編に分けて説明していますので併せてご覧ください。
おすすめ記事:Z世代とインフルエンサーマーケティング【前編】
目次
米国通信会社Sprintのインフルエンサーマーケティング事例
米国の通信業界は、「Verizon社」や「AT&T社」などの大手企業が多くのシェアを占め、非常に競争が激しいことで知られています。
そのような状況の中、通信会社「Sprint社」は、2017年に「若者文化を理解するマーケティングチーム」を誕生させ、業界内で初めてインフルエンサーマーケティングを実施したことで注目を浴びました。
Sprint社のインフルエンサーマーケティング事例についてはこちらの記事に詳しくまとめてありますので併せてご覧ください。
おすすめ記事:Z世代に向けた米国通信会社Sprintのインフルエンサーマーケティング戦略
-
- https://lmnd.jp/blog/genz_sprint
ウォルト・ディズニー社のインフルエンサーマーケティング事例
世界的に有名なウォルト・ディズニー社もインフルエンサーマーケティングを実施しているブランドの一つです。マーケティングや広告のための予算を豊富に持つウォルト・ディズニー社のような大手企業もインフルエンサーマーケティングの効果に注目し、積極的にマーケティング戦略に取り入れています。
YouTube動画を活用したプロモーション
ウォルト・ディズニー社は、9歳から13歳をターゲットにしたYouTube動画のインフルエンサーマーケティングを実施しました。目的は、自社のYouTubeチャンネルの登録者を増やすことでした。
インフルエンサーマーケティングキャンペーンでは、10代の若者の間で名前が知られているAlana Smithさん、Brighton Zeunerさんなどの有名スケートボーダーとタイアップしました。
ウォルト・ディズニー社は、動画を制作する前に10代の若者を対象にして、動画のコンセプト、ストーリー、クリエイティブスタイルなどのオンライン調査を実施しました。このように、コンテンツの受容性について事前に調査を行うことでキャンペーンの失敗を防ぐことができます。
タイアップしたインフルエンサーは、ディズニーリゾートで最高の一日を過ごし、それがYouTube動画になりました。それぞれのインフルエンサーは、パーク内のお気に入りの場所で写真を取り、 「伝説のスケートボードアーティスト」と言われるMike Carnevaleさんが、写真を基にそれぞれのインフルエンサーのためにオリジナルのスケートボードをデザインしました。
YouTube動画をインスタグラムで拡散
YouTubeの動画は22万6000回以上再生され、さらに話題を拡散させるために、ディズニーのインスタグラムページにも投稿されました。
インフルエンサーの一人であるAlana Smithさんは、ディズニーの人気アトラクション「タワー・オブ・テラー」がデザインされたスケートボードを、「#Sweepstakes」のタグを付けてインスタグラム上でコメントをしたオーディエンスの中から抽選でプレゼントするとキャプションでコメントしました。
コメント欄には、スケートボードが大好きなZ世代や、Alana Smithさんのファンからたくさんのコメントが寄せられ、2400件以上の「いいね!」付きました。
Z世代は、有名タレントやモデルなどの「セレブ」よりも、ユーチューバーやインスタグラムで活躍するインフルエンサーを身近に感じています。
「テレビを見ない」「広告を嫌う」など、従来の消費者とは異なる特徴を持ったZ世代をターゲットとしたマーケティングには、インフルエンサーの存在が必要不可欠です。
今回のインフルエンサーマーケティング事例では、Z世代と親和性の高いスケートボードというカテゴリーに注目し、そのカテゴリーで人気のあるインフルエンサーとタイアップしたことが成功の理由と言えます。
高級時計ブランドTag Heuerのインフルエンサーマーケティング事例
Tag Heuerは、日本でも非常に人気があるスイスの高級時計ブランドです。Tag Heuerの時計は、安いものでも数万円、高いものは30万円を超え、Z世代にはあまり関連がないように思われます。
しかし、Tag Heuerのような高級ブランドも、これから消費者の中心となるミレニアル世代とZ世代へのマーケティングの必要性に気づき、インフルエンサーマーケティングを活用したブランド認知度アップに取り組んでいます。
ブランドの雰囲気に合ったインフルエンサーとタイアップ
Tag Heuerは、イギリスのファッションモデルでZ世代に属するCara Delevingneさんとパートナーシップを組み、インスタグラムでスポンサーコンテンツを継続的に投稿してもらっています。
Caraさんは4200万人のフォロワーを持ち、こちらのスポンサーコンテンツには62万件の「いいね!」が付いています。
Tag HeuerのCEOであるJean-Claude Biverさんは、 ファッション業界誌Women’s Wear Dailyの取材に対し、「私たちには、若い世代との架け橋になる、斬新で、エレガントな雰囲気を持つCaraさんのようなインフルエンサーが必要でした。」
Tag Heuerの世界観にマッチしたCara Delevingneさんというインフルエンサーを通じてブランドを広めることによって、ブランドのコンセプトやイメージがオーディエンスに伝わりやすくなります。
さらに、Z世代のインフルエンサーであるCaraさんとタイアップしたことによって、Z世代にTag Heuerのような高級ブランドを身近に感じてもらう効果もあります。
米国コスメブランドOlayのインフルエンサーマーケティング事例
Z世代を中心とした若年層はCSR(Corporate Social Responsibility = 企業の社会的責任)を重視し、CSRに積極的に取り組んでいるブランドを好みます。そのため、Z世代へのアプローチには、商品やサービスの購入を通して社会貢献活動につながることを顧客に訴求する「コーズマーケティング」が有効だと考えるブランドが増えています。
CSRは、アピールの仕方次第では「宣伝のためにやっている」と思われてしまいますが、インフルエンサーマーケティングを活用することによって、企業のメッセージをオーディエンスに分かりやすく、ダイレクトに伝えることができます。
米国スキンケア商品ブランド「Olay」は、コーズマーケティングとインフルエンサーマーケティングをうまく融合し、8%を超えるインスタグラムのエンゲージメント率を実現しました。
インフルエンサーによる「28日間チャレンジ」
Olayは、2018年8月に9人のインフルエンサーとタイアップして、女性が困難を乗り越え、自信を持って人生を楽しむためのサポートとして「28日間チャレンジ」を実施しました。
選ばれたインフルエンサーは、アスリートやモデル、ガンを経験した女性など様々で、タイアップしたインフルエンサーは普段使用しているスキンケア商品をOlayのものに変え、Olayの商品ラインナップを自然な形でプロモーションしました。
さらに、Olayはリアルで自然な女性の美についてのムーブメントを起こすために、複数のインスタグラマーともタイアップして#FaceAnything(どんな事にも立ち向かう)のハッシュタグを付けたコンテンツを投稿してもらいました。
「あらゆる困難に立ち向かう女性たちをスキンケアという方法でサポートしたい」というOlayのメッセージはオーディエンスにダイレクトに響き、キャンペーンはファッション雑誌Vogueにも取り上げられました。
さらに、ニューヨークのタイムズ・スクエアにも巨大な看板が設置されました。
インフルエンサーは、企業のメッセージをオーディエンスに伝える「メッセンジャー」です。有名人や企業広告よりもインフルエンサーのことを信用しているミレニアル世代やZ世代には、インフルエンサーを通じたメッセージの発信が非常に有効です。
さらに、そのメッセージがCSRに関連したものであれば、なおさら情報が拡散されやすくなります。コーズマーケティングとインフルエンサーマーケティングのコラボレーションは、Z世代へのアプローチ方法として企業が取り入れるべきマーケティング戦略と言えます。
米国コスメブランドJulepのインフルエンサーマーケティング事例
Julepは、シアトルを拠点とするビューティーブランドです。インフルエンサーとのタイアップは、Julepにとってすでに欠かせないものになっています。
同社は、自社商品であるコンシーラーをプロモーションするために、インフルエンサーとのタイアップキャンペーンを実施しました。プロモーションのゴールは、ソーシャルメディアで存在感を出し、Julepのブランドネームをミレニアル世代やZ世代に広めることでした。
また、Julepは、インフルエンサーとのタイアップコンテンツを複数のプラットフォームに展開しているため、キャンペーン終了後も使用できる良質なコンテンツ(写真)を集めるという目的もありました。
情報拡散効果が高いプレゼントキャンペーン
Julepは複数のインフルエンサーとタイアップし、その中の一人である@kirbyisabossさんに、インスタグラムでプレゼントキャンペーンを実施してもらいました。6万人のフォロワーがいる@kirbyisabossさんのコンテンツは、7.3%という高いエンゲージメント率を達成しました。
キャンペーンは目標としていたKPIを大きく上回りました。インプレッションは目標値の3.4倍、1エンゲージメントあたりのコストは予想の6分の1という驚きの結果になりました。また、コンテンツで使用された写真は、あらゆるメディアで使用できる素晴らしい販促ツールになりました。
今回のインフルエンサーマーケティング事例では、ブランドがターゲットとするオーディエンス層をフォロワーに持つインフルエンサーとタイアップしたことが成功の大きな理由になりました。
インフルエンサーは特定の分野の専門家であり、フォロワーはその分野とインフルエンサーのライフスタイルに強い関心を持っています。
Z世代にアプローチするためには、ブランドにマッチする分野で活躍していて、なおかつZ世代をフォロワーに持つインフルエンサーとタイアップすることが大切です。
Z世代へのインフルエンサーマーケティング戦略に欠かせないこととは?
ここまで、インフルエンサーマーケティングを活用してZ世代へのアプローチを成功させたブランドを5つ紹介してきました。ただし、インフルエンサーマーケティングは「インフルエンサーとタイアップすれば成功する」というものではありません。
特に、これまでの消費者層とは異なる特徴を持つZ世代へのインフルエンサーマーケティング戦略を考える上では、次のような点に注意する必要があります。
Z世代の流行をキャッチする
米国マーケティング会社「Sparks & Honey」によると、Z世代は学校で勉強する以外の時間のうち41%を、コンピューター・モバイル機器でのマルチタスクに費やしていると言います。10年前は同じ調査の結果が22%だったので、その倍近くになっています。
マルチタスクを当たり前に行っているZ世代へアプローチするためには、彼らが集まるプラットフォームを特定し、複数のプラットフォームでマーケティング戦略を水平展開するという対応が必要になります。
Z世代が集まる場所として有名なのがソーシャルメディアですが、ソーシャルメディア「だけ」がZ世代と繋がりを持てるプラットフォームだと考えてはいけません。
アクセンチュアが2017年に実施した消費者調査によると、Z世代は最新のデジタルトレンドとプラットフォームを取り入れているブランドにロイヤリティーを感じる傾向があるそうです。
現在、Z世代の間でよく使われているソーシャルメディアはインスタグラムとスナップチャットで、今後もこの傾向は続くと考えられています。
しかし、Z世代のコミュニケーションに詳しい、米国「Hill Holliday社」の調査によると、調査対象となった18歳から24歳までの34%がすでにソーシャルメディアを退会したという驚きの結果が出ています。また、全体の58%が、ソーシャルメディアの必要性を、「コミュニケーションツール」ではなく、「安心」と表現しました。
Z世代のマーケティングにソーシャルメディアが必要不可欠であることは事実ですが、彼らの中では流行の移り変わりが早いため、話題のトピックや購買行動の変化に対する継続的なモニタリングと、マーケティング戦略の見直しが必要です。
Z世代に属するインフルエンサーを活用する
Z世代に「属さない」マーケターはZ世代の行動について調査するしかありませんが、Z世代のインフルエンサーとタイアップすれば、Z世代の流行や購買行動について一番リアルな声を聞くことができます。
インフルエンサーはその世代の代表とも言える存在です。Z世代のインフルエンサーとのタイアップは、その世代への影響力を活用できるだけではなく、流行をキャッチできるという点でも大きなメリットがあるのです。
まとめ
今回は、インフルエンサーマーケティングを上手に取り入れてZ世代へのアプローチに成功したブランドの事例を5つ紹介しました。
今後、消費者の中心となっていくZ世代に対して、これまでと同じマーケティング戦略は通用しません。彼らの流行を敏感にキャッチし、継続的なマーケティング戦略の見直しが必要になります。
そんなZ世代へのアプローチの大きな助けとなるのが、インフルエンサーです。
特に、これからZ世代へのアプローチを開始するブランドにとって、インフルエンサーマーケティングは特に重要なマーケティング戦略と言えるでしょう。
インフルエンサーマーケティングの戦略を考える上で必要なことはこちらの記事にまとめてありますので併せてご覧ください。
おすすめ記事:【2019年版】究極のインフルエンサーマーケティングマニュアル
-
- https://lmnd.jp/blog/ultimate-influencer-marketing-manual-2019
参考:https://thenextweb.com/contributors/2017/08/24/how-sprint-leveraged-gen-z-to-pivot-their-brand/
https://blog.hoopygang.com/5-interesting-influencer-marketing-campaigns-2017
https://www.inc.com/nicolas-cole/sprint-is-betting-big-on-influencer-marketing-with.html
https://www.debaird.net/blendededunet/walt-disney-world-gen-z-social-media-content-influencer-youth-marketing-derek-e-baird.html
https://www.cohley.com/julep-case-study
https://www.launchmetrics.com/resources/blog/luxury-brands-and-generation-z-consumers
https://mediakix.com/blog/influencer-cause-marketing-case-study-olay-instagram-beauty/