工具・DIYツールブランドBoschのインフルエンサーマーケティング戦略

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1886年にドイツのシュトゥットガルトで創業した工具メーカーの「Bosch」は、世界的に有名なテクノロジー企業です。そんなBoschが「インフルエンサーマーケティングを活用している」と聞いたら、意外に思う人は多いかもしれません。

Boschのメイン商品である電動工具のターゲットは、DIYが趣味の一般人から、仕事で毎日使用するプロフェッショナルまで幅広いのが特徴です。Boschは商品やブランド認知度をアップさせる目的で、DIYツールとしてのBtoCマーケティング戦略と、プロ用工具としてのBtoBマーケティング戦略のどちらにもインフルエンサーマーケティングを活用しています。

今回は、Boschのインフルエンサーマーケティング戦略と事例を、Bosch社員へのインタビュー内容を交えて紹介します。

目次

  1. Boschの担当者が語るインフルエンサーマーケティング
  2. BoschのBtoBインフルエンサーマーケティング事例
  3. まとめ


  4. Boschの担当者が語るインフルエンサーマーケティング

    Boschは、ヨーロッパのインフルエンサーマーケティングプラットフォームである「Influo」を活用して、これまでに10件のインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施してきました。

    Influoは、Boschの営業マネージャーであるEva GeversさんとKristel Turksmaさんをインタビューし、Boschのインフルエンサーマーケティング戦略についての理解を深めました。

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    Boschのインフルエンサーマーケティング戦略

    まずは、Boschの社員2名に対するインタビューの内容を見ていきましょう。

    Q. Boschの電動工具に関するマーケティング戦略とはどのようなものですか?

    Kristelさん:Boschの電動工具のマーケティングチームは、各商品のマーケティングマネージャーと営業マネージャー、オンラインマーケティングマネージャーによって構成されていて、商品カテゴリ横断のプロモーションを実施できるようになっています。

    私たちが主に使用しているチャネルは、ソーシャルメディア、Eメールマーケティング、ブログ、雑誌広告、業界誌、そして、インフルエンサーマーケティングももちろん含まれています。雑誌広告の割合は縮小傾向にありますが、インフルエンサーマーケティングの割合は拡大しています。

    Q. どのようなキッカケでインフルエンサーマーケティングを始めたのですか?

    Kristelさん:私たちは数年前、数名のブロガーに連絡を取りました。 Eメールを通じていくつかのプロジェクトを立ち上げ、彼らの作りだすコンテンツをとても気に入りました。

    ただ、一つ問題点がありました。それぞれのブロガーが、自身のブログにどのくらいアクセスがあったのかを報告してくれましたが、それが事実かどうかを確かめるのが困難だったのです。

    この事をきっかけに、パフォーマンス測定が可能なプラットフォームを探し始めました。その頃ちょうどインフルエンサーマーケティングが流行し始め、プラットフォームと同時にインフルエンサーも探すことになりました。

    このような経緯から、ブランドが自らインフルエンサーを探すセルフサービス型のインフルエンサーマーケティングプラットフォームを選ぶ際は、正確なパフォーマンス測定が可能であることが最も重要でした。Evaさん、他にインフルエンサーマーケティングプラットフォームを選ぶ際に大切なことはありますか?

    Evaさん:私たちBoschの社員がインフルエンサーマーケティングプラットフォームを選ぶ基準は、主に3つあります。

    1つ目は、ブランドに適したインフルエンサーに出会えるように、豊富なデータベースがあることです。データベースの数は多い方が望ましいですが、同時にインフルエンサーを検索しやすいシステムであるべきですね。

    2つ目は、リーチ数、エンゲージメント率などの成果が測定できることです。私たちがインフルエンサーマーケティングキャンペーンでタイアップしている全てのインフルエンサーのデータを取ることができればベストです。

    3つ目は、使いやすいプラットフォームであることです。インフルエンサーが探しやすく、データ分析画面が見やすいプラットフォームがいいですね。

    Q. Boschではインフルエンサーマーケティングをどのように活用していますか?また、主なKPIは何ですか?

    Kristelさん:私たちは、ドイツ本社から毎月インフルエンサーマーケティングのKPIについて聞かれます。主に使用しているKPIは次の4つです。

    ・リーチ
    ・エンゲージメント
    ・エンゲージメント率
    ・エンゲージメントにかかるコスト

    これまで、私たちは商品認知度向上のためのインフルエンサーマーケティングキャンペーンに注力してきました。なぜなら、私たちは人々の生活をより良くするための商品をたくさん開発していますが、商品の存在自体を知らない消費者が多いからです。

    Evaさん:私たちはソーシャルメディア、Eメールや雑誌など、さまざまなプラットフォームを活用してマーケティングを行っているのですが、その理由はジャンルの異なるオーディエンスにリーチすることができるからです。

    例えば、Eメールニュースレターのターゲット層は少々年齢が高めで、主に商品の値段や仕様など、「商品そのもの」に関する情報を発信してます。一方、インスタグラムなどのソーシャルメディアやインフルエンサーマーケティングキャンペーンでは、商品そのものではなく、「商品を使って何を作ることができるか」というインスピレーションが得られる内容になっています。商品ではなく、商品を使用した結果にフォーカスしたコンテンツですね。

    リーチに対するコストの割合を分析すると、同じ予算を投入した場合、一般的な有料広告よりもインフルエンサーマーケティングの方がずっと多くの施策が打てると分かりました。その上、インフルエンサーの言葉の方が、企業の有料広告よりも信憑性があります。従来の広告の多くは商業的になり過ぎてしまいますが、インフルエンサーは本物のメッセージを拡散させることができます。

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    インフルエンサーマーケティングの失敗を防ぐには?

    Q. Boschではこれまでに10件のインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施されていますが、これらのインフルエンサーマーケティングキャンペーンを通じてどのような学びがありましたか?

    Evaさん:多くのインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施してきましたが、キャンペーンを通じて毎回新しい発見があります。何かを試して、その結果を検証することでしか、どんな戦略が自分たちのブランドに相応しいのかは分かりませんから。他のブランドで成功している戦略が、自分たちのブランドでも上手くいくとは限りません。

    Evaさん:インフルエンサーマーケティングを開始した当初は、数多くのインフルエンサーに無料の商品サンプルを配って少なめの報酬でコンテンツを投稿してもらうのが主な戦略でしたが、限られた人数のインフルエンサーと長期に渡ってタイアップするスタイルへと徐々に戦略が変化してきました。

    私たちは、DIYのプロであるインフルエンサーと1~2年間タイアップしています。私たちがタイアップしたインフルエンサーは質の高いコンテンツを制作するスキルがあり、DIYに興味があるフォロワーを多く抱えていたので、良い結果が出ると分かっていました。

    ただし、同じインフルエンサーとばかり仕事をし過ぎないように気を付けています。インフルエンサーのフォロワーに、「この人はいつもBoschについて投稿している」と思われることは、ブランドにとってもインフルエンサーにとっても良いことではありません。

    Q. インフルエンサーマーケティングについて他のブランドに何かアドバイスはありますか?

    Kristelさん:もし良い結果を出したいのであれば、インフルエンサーの働きに対して相応のインセンティブを与えることが重要です。インフルエンサーマーケティングは、「インフルエンサーがコンテンツを投稿して終わり」ではありません。制作してもらったコンテンツをブランドがプロモーションに利用する時に、特に成果を発揮します。

    コンテンツの質は報酬によって変わります。もし質の高いコンテンツを求めるのであれば、それに相応しいインセンティブが必要です。

    私たちの業界で扱っている商品は、安全面の考慮が必要です。例えば、インフルエンサーが電動工具を使用する際、髪が長ければ安全のために結ばなければなりません。インフルエンサーが安全のためのガイドラインに従っていないコンテンツは、ブランドのプロモーションに使用することができません。そこで、少し高めにインセンティブを支払って、ガイドラインに注意してもらうようにしています。

    Boschへのインタビューから学べること

    複数のインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施していく中で、Boschはインフルエンサーとの関わり方を徐々に身につけていきました。インフルエンサーマーケティングキャンペーンは、うまく戦略を立てることができれば従来の企業広告よりも低予算で効果的なプロモーションが期待できます。

    また、キャンペーンを実施する際はインフルエンサーマーケティングプラットフォームなどを活用し、キャンペーンのパフォーマンスを測定できる状態にしながら改善していくことが大切です。

    Boschは、これまでにInfluoを通じて実施した10件のインフルエンサーマーケティングキャンペーンにおいて、次のような結果を残しています。

    タイアップしたインフルエンサー:

    下記のインフルエンサーを含む57名

    @tanjavanhoogdalem
    @enter_my_attic
    @hemelryk_
    @dirksdotter
    @annasophia.be
    @jannealers
    @anneleends

    コンテンツの数:計163件
    リーチしたオーディエンスの数:126万人
    ソーシャルメディアのエンゲージメント:5万2,000人
    エンゲージメント率:10.34%
    ブログのビュー数:1万件

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    BoschのBtoBインフルエンサーマーケティング事例

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    Als je mijn feed bekijkt, vergeet je haast dat er ook nog de #mijninstagramhusband is 😉 we hebben het allebei retedruk op het moment waardoor we enorm kunnen botsen. Extra blij ben ik dan als hij ‘rotklusjes’ doet zoals onze grote tuin winterklaar maken. Ik zorgde er dan wel weer voor dat hij dat makkelijker kan doen met de Bosch Easy Prune! Met deze kleine krachtpatser kun je takken tot wel 25mm diameter heel eenvoudig snoeien! Vind je niet dat Hans het enig voordoet? #homemadebyyou @bosch_doe_het_zelf_nl #samenwerking #dirksdotter #dadstaysinthepicture haha #tuinieren #gardening #garden #outside #outsideliving #tuin #amsterdam #woonboot #herfst #herfstkleuren #fall #autum #autumncolors #fallcolors #blauweregen #instagramhusband #getrouwd #husband #manlief

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    先ほど紹介した10件のBtoC向けインフルエンサーマーケティングキャンペーン以外にも、Boschはさまざまなプラットフォームでインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施しています。その一例として、Boschが実施した「#Builtwithbosch」というBtoBインフルエンサーマーケティングキャンペーンを紹介します。

    Boschは、スマートフォンアプリを使って簡単に設定ができる電動工具をイギリス市場で展開する際に、インフルエンサーマーケティングを実施しました。競合他社がすでに類似の商品を販売し始めていたため、イギリス市場で成功するためには「イノベーションリーダー」としての自らの立場をアピールすることが必要でした。

    さらに、Boschは次のような課題も抱えていました。

    ・技術に対して厳しい目を持つオーディエンス

    今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンのターゲットは、イギリス国内の水道管工、電気技師、エンジニア、大工、建設会社など、電動工具を日常的に仕事で使用するプロフェッショナルでした。電動工具という専門ツールの技術に対して厳しい目を持つオーディエンスに納得してもらうために、分かりやすく商品の技術的な利点を伝える必要がありました。

    ・Boschブランドのイメージ改善

    「Bosch」というブランドに関するリサーチを実施した結果、消費者は『少し冷たい印象があるブランド』というイメージを持っていることが分かりました。

    キャンペーンの戦略:

    これらの課題を克服するために、Boschは電動工具に関連があり、フォロワーと強い繋がりを持つ複数のマイクロインフルエンサーとタイアップしました。

    インフルエンサーに電動工具を提供し、ユーモアを交えた分かりやすい商品のレビュー動画を制作してもらい、普段から電動工具を使用しているプロフェッショナルに電動工具の買い替えを促しました。

    キャンペーンの結果:

    今回のキャンペーンはソーシャルメディアでの動画コンテンツ配信を中心に展開され、フェイスブックでは次のような結果になりました。

    リーチ数:78万101件
    エンゲージメント:2万8,331件
    リアクション:2,048件
    コンテンツのクリック数:2万5,061回
    動画閲覧回数:13万7,257回

    今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンでは、商品の魅力を分かりやすくオーディエンスに伝えると同時に、『親しみやすいブランド』というBoschのイメージを確立する必要がありました。

    動画という視覚的に分かりやすいツールを活用し、インフルエンサーがユーモアを交えて商品の率直なレビューを行ったことが今回のキャンペーンの成功に繋がりました。また、フォロワーとの結びつきが強いマイクロインフルエンサーとタイアップしたことも、エンゲージメント率を押し上げる要因となりました。


    まとめ

    今回は、Boschのインフルエンサーマーケティング戦略と事例を、Bosch社員へのインタビュー内容を交えて紹介しました。

    インフルエンサーは商品やブランドのイメージを変える力を持っています。Boschとタイアップしたインフルエンサー達は、Boschの電動工具を、ある時は気軽なDIYツールとして、またある時はプロ仕様の本格的な工具としてプロモーションしました。

    ターゲットオーディエンスを明確にした上で、適切なインフルエンサーとタイアップすることができれば、インフルエンサーマーケティングが成功に大きく近づきます。

    また、キャンペーンを実施する際は、成果を測定できるようにインフルエンサーマーケティングプラットフォームなどのツールを活用することも大切です。

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    参考:https://www.influo.com/blog/how-bosch-does-influencer-marketing/
    https://www.b2bmarketing.net/en-gb/resources/b2b-case-studies/awards-case-study-how-bosch-created-next-generation-tradespeople
    http://www.bosch.co.jp/pt/connectivity-2017/jp/ja/?pt-top
    https://www.brandingby8.com/branding/five-unique-ways-to-effectively-communicate-your-brand-on-social-media/

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