2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの企業が厳しい状況に直面しました。景気が悪くなるとマーケティング予算が削減され、広告による売上も減少します。
しかし、逆境は方向転換の大きな機会であるとも言えます。ブランドは、限られたマーケティング費用の中で実施可能な政策を考え、顧客との繋がりを失わないようにする必要があります。
2019年に、ソーシャルメディアの年間広告費は過去最高の360億ドルに達しました。その後すぐにコロナウイルスの感染拡大が始まり、家庭で過ごす人が増えた影響で、ソーシャルメディアの使用量は32%増加しました。
その機会を活用するために、複数のブランドが、ソーシャルメディアとインフルエンサーマーケティングキャンペーンに投じる予算を増やしています。
今回は、2020年10月に調査した海外のインフルエンサーマーケティング最新事例を紹介します。
目次
1. P&Gのお掃除ワイパー「スイッファー」のインフルエンサーマーケティング事例
世界最大の一般消費財メーカーである「P&G」が提供するお掃除ワイパーの「スイッファー」というブランドには、ペットを飼っている家庭向けの商品があります。
米国では、6月が「全国ペット里親あっせん月間」と定められています。スイッファーはペットの里親を探す活動を行っている「North Shore Animal League」のスポンサーで、全国から参加しているシェルターパートナーの中で、承認された最初の50組の里親にかかる費用のうち50ドルを支援するというインフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施しました。
キャンペーンには、メガインフルエンサーからマイクロインフルエンサーまで、さまざまな規模のインフルエンサーが参加しました。
ペットの写真を投稿しているインフルエンサーのHenry Loves Kikiさん(@henryloveskiki)はキャプションで、「スイッファーには、ペットの抜け毛を掃除するのに役立つツールがあります。」と述べた上で、「スイッファーとタイアップできたことを誇りに思います。家にいる時間が増えるにつれ、アメリカ人はこれまで以上にシェルターにいる動物たちの里親になっています。この勢いを維持しましょう!」と、スイッファーの取り組みについて説明しました。
キャンペーンに参加した以下の代表的なインフルエンサーは、150万回の動画再生、100万件の「いいね!」、3.4%のエンゲージメント率に貢献しました。
・Harlow and Sageさん(170万フォロワー)
・Popeye the Foodie Dogさん(41万6,000フォロワー)
・Lee Asherさん(27万5,000フォロワー)
CSR(Corporate Social Responsibility = 企業の社会的責任)に対して積極的に取り組みを行っているブランドを好む消費者は多く、特にZ世代と呼ばれる10代の若年層ではその傾向が顕著です。
CSRは、アピールの仕方次第では「宣伝のためにやっている」と思われてしまいますが、今回の事例のようにインフルエンサーマーケティングを活用することによって、ブランドのメッセージをオーディエンスに分かりやすく、ダイレクトに伝えることができます。
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2. カミソリブランド「DollarShave Club」のインフルエンサーマーケティング事例
1ドルという格安のカミソリを提供する「Dollar Shave Club」は、2011年に立ち上げられた新しいブランドです。Dollar Shave Clubは2012年に社長が自ら出演した下記のYouTube動画で話題を集め、再生数は2,700万回を突破しています。
Dollar Shave Clubはインフルエンサーマーケティングにも取り組んでおり、2020年3月に実施されたインスタグラムキャンペーンでは、インフルエンサーとそのパートナーやアシスタント、配偶者、子供たちに焦点を当てています。
インスタグラムに1,400万人のフォロワーを持つメガインフルエンサーのDAVID DOBRIKさん(@daviddobrik)は、同じくインスタグラムに400万人のフォロワーを持つNatalieさん(@natalinanoel)との2ショット写真を公開しました。DOBRIKさんとNatalieさんは、それぞれのアカウントで13%と18%という高いエンゲージメント率を達成しました。
通常、インフルエンサーマーケティングでは、フォロワー数が多ければ多いほどエンゲージメント率が下がる傾向があり、DOBRIKさんやNatalieさんほどのフォロワー数でこのエンゲージメント率は驚異的です。フォロワーが、彼らの自然体のコンテンツを好意的に受け入れたという証明と言えるでしょう。
一般的な企業広告とは異なり、インフルエンサーは、スポンサードコンテンツの雰囲気を通常のコンテンツと合わせて馴染ませるため、「広告感」が少ないのが特徴です。そのため、インフルエンサーマーケティングを実施する際は、インフルエンサーを信頼してクリエイティビティの自由を持たせることが大切です。
ブランドのコンセプトやキャンペーンの基本的な方針をインフルエンサーに共有した後は、インフルエンサーにコンテンツの作成を任せるようにしましょう。
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3. DOVEの父の日インフルエンサーマーケティング事例
DOVEは、ユニリーバ社が展開するパーソナルケア商品で、日本でもお馴染みのブランドです。DOVEは「Dad」と呼ばれるドキュメンタリー映画のスポンサーを務め、コロナウイルスの世界的な感染拡大で景気後退が進む中、映画を公開することを選択しました。その際に、プロモーション戦略としてインフルエンサーマーケティングを実施しました。
キャンペーンの主な目的は、育児休暇の重要性に対する認識を高めることで、映画によって得た、男性向けの商品ライン「DoveMen + Care」の売上の一部は育児休暇基金の支援に充てられます。
キャンペーンでは、16名のインフルエンサーに依頼して、映画の説明と共に、父親としてのインフルエンサー自身の経験についてコンテンツを投稿してもらうよう依頼しました。
インスタグラムに1万4,000人のフォロワーを持つMike Quinonesさん(@mikerunt)は、お子さんと映った写真をコンテンツとして投稿し、キャンペーンの平均である7%よりも大幅に高い12.4%というエンゲージメント率を達成しました。
エンゲージメント率が高いコンテンツは、社会に向けたメッセージとインフルエンサーのコンテンツが適切に調整されていることを意味します。複数のコンテンツを投稿してパフォーマンスを比較することによって、次回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンに活かせる成功ポイントや改善点を見つけることができます。
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4. スポーツ飲料「ゲータレード」のインフルエンサーマーケティング事例
ゲータレードは米国発の清涼飲料水で、これまでは有名人を起用した広告を中心としたマーケティング戦略を実施してきました。しかし、今年は多くのスポーツイベントが中止になり、これまでのような「スタジアム」のイメージの広告から方向転換する必要がありました。
ゲータレードはソーシャルメディアを活用したインフルエンサーマーケティングキャンペーンに着目し、インスタグラムとYouTubeで「Make The Days Count」というキャンペーンを実施しました。
インスタグラムに40人、YouTubeに30人のトップトレーナーとアスリートが参加し、テニスチャンピオンのSerena Williamsさんや、NFLのKenneth Murrayさんなど、有名アスリートも含まれていました。
インスタグラムに投稿された動画の再生回数は22万回を超え、5万4,000件の「いいね!」が付きました。スポーツイベントが開催できないことは、業界関係者にとって非常に大きなダメージです。しかし、プロアスリートがカメラをセットし、寝室やガレージで簡単なトレーニングを行っている動画を共有するだけで、オーディエンスとの繋がりを保つことができます。
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5. 食品メーカー「Kettle + Fire」のインフルエンサーマーケティング事例
Kettle + Fireは、飼料にこだわった牛や鳥から作られたスープストックで、健康志向の食通向けに販売されています。Kettle + Fireは、ソーシャルメディアマーケティングの必要性に気づいていましたが、それを実現する方法がわかりませんでした。
また、Kettle + Fireはキャンペーンのコンテンツ内容をブランドが決定できるようにしたいと考えており、インフルエンサーにコンテンツの作成を依頼しつつ、ブランドがキャンペーンのイニシアティブを取るために、インフルエンサーマーケティングプラットフォームを活用することにしました。
インフルエンサーマーケティングプラットフォームである「Trend」の協力の基、Kettle + Fireは、商品の具体的なメリットを伝えるためにキャンペーンを実施しました。インフルエンサーの候補者リストを作成し、その中からブランドに最適なインフルエンサーを選択しました。
Kettle + Fireとタイアップしたインフルエンサーのチームはブランドの要件に従い、質の高いコンテンツを作成しました。さらに、Kettle + Fireはインスタグラム用に作成された画像をフェイスブック広告で運用し、より多くのトラフィックを獲得しました。
インフルエンサーマーケティングによって生み出されたコンテンツは、フェイスブックに1ドル費やすごとに4ドルの収益を上げていることが明らかになり、広告のパフォーマンスが従来比で61%向上するという大きな成果を残しました。
インフルエンサーマーケティングを実施すると、インフルエンサーが作成した質の高いコンテンツを入手することが可能で、コンテンツを広告運用やプロモーションなどに二次転用することもできます。
Kettle + Fireは長い間、商品の魅力をアピールできるコンテンツを求めていました。今回のインフルエンサーマーケティングキャンペーンによって、Kettle + Fireは効果的に商品をプロモーションできただけではなく、他のプロモーションに使用できる商品写真も手に入れることができました。
トラブルを回避するため、コンテンツの二次転用についてインフルエンサーに対して事前に確認を取り、契約書に記載しておくと良いでしょう。
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6. メガネブランド「ワービー・パーカー」のインフルエンサーマーケティング事例
ワービー・パーカーは、手頃でファッショナブルなメガネブランドとして、2010年に誕生しました。 ワービー・パーカーの名前はすでに幅広く知られていますが、インスタグラムを活用してさらにブランド認知度を高めてエンゲージメントを促進したいと考え、ROIが高いことで知られているインフルエンサーマーケティングの中でも特に高いエンゲージメントが期待できるマイクロインフルエンサーとのタイアップキャンペーンを選択しました。
「Wearing Warby」と名付けられた今回のインフルエンサーキャンペーンでは、クリエイティブ業界で活躍する7人のマイクロインフルエンサーとタイアップを行い、インスタグラムとYouTubeでキャンペーンが展開されました。
クリエイティブ業界のインフルエンサーとタイアップすることで、オーディエンスを拡大するだけでなく、ライフスタイルブランドとしての地位を確立しました。
また、キャンペーンでは、過去にワービー・パーカーに関するコンテンツを自発的に投稿したことがあるインフルエンサーが選ばれました。そうすることによって、ワービー・パーカーは、「本物の」ブランドのファンであるインフルエンサーとのタイアップを可能にしました。
キャンペーンの結果は次のようになりました。
・80万人以上のリーチ
・合計5万5,000件以上の「いいね!」
・合計640件のコメント
・キャンペーン全体の平均エンゲージメント率は3.45%
ワービー・パーカーは、すでに幅広く名前が知られているブランドですが、今回のキャンペーンで「インスタグラムとYouTubeのオーディエンス」という新たな顧客層にリーチすることができました。
コカ・コーラやナイキのように誰もが知っているブランドであっても、インフルエンサーマーケティングや有料広告によって既存顧客との繋がりを深め、新たな顧客層を開拓する努力を続けています。
ブランド認知度を向上させるための施策を続けること、そして、新たな顧客層とのタッチポイントを増やすことは、ブランドにとって重要な長期戦略と言えます。
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7. 紅茶メーカー「Health-Ade」のインフルエンサーマーケティング事例
ロサンゼルスを拠点とする「Health-Ade」は、お茶を発効させた「コンブチャ」と呼ばれるドリンクのブランドです。コンブチャは美容や健康に良いとして、世界的なセレブの間で人気を集めています。
Health-Adeは、まず「コンブチャ」の存在を知ってもらうことから始める必要がありました。Health-Adeはインフルエンサーマーケティングプラットフォームである「Trend」に協力を依頼し、インフルエンサーマーケティングキャンペーンを実施しました。
Yinkaさん(@yourstrulyyinka)はインスタグラムに4万5,000人のフォロワーを持つファッションインフルエンサーで、友人と共にコンブチャを楽しむ様子を撮影した写真をコンテンツとして投稿しました。
また、インスタグラムに146万人のフォロワーを持つ人気モデルのAmelieさん(@ameliezilber)もスポンサードコンテンツを投稿し、キャプションで「これまではダイエットコーラばかり飲んでいましたが、今はコンブチャの虜です。」と述べました。Amelieさんはコンブチャの特徴について分かりやすく説明し、20%オフで商品を購入できるクーポンコードも共有しました。
今回のキャンペーンでは、数多くのフォロワーを持つ「セレブ」と呼ばれるインフルエンサーと、フォロワー数は少ないものの、ニッチなコミュニティで強い影響力を持つマイクロインフルエンサーとのタイアップを経て、160万回のインプレッションを獲得しました。
フォロワー数やジャンルの異なるインフルエンサーとタイアップすることによって、より幅広いオーディエンスへのリーチが可能になります。
インフルエンサーマーケティングはかつて、「効果測定が難しい」と言われていました。しかし、インフルエンサーマーケティングプラットフォームなどが提供する効果測定ツールの発達によって、今では「ROI(投資利益率)が高いマーケティング手法」として知られています。そのため、インフルエンサーマーケティングに予算を投じるハードルが以前よりもずっと低くなっています。
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まとめ
今回は、2020年10月に調査した海外のインフルエンサーマーケティング最新事例を紹介しました。
多くのブランドがこれまでのように大々的なプロモーションができない状況下で、非対面でのリーチが可能なソーシャルメディアを活用したインフルエンサーマーケティングキャンペーンによってマーケティング目標を達成しています。
新しくインフルエンサーマーケティングキャンペーンに取り組もうとしているブランドには、インフルエンサーの選定から契約締結、キャンペーンの管理、効果測定という一連の流れを完結させることができるインフルエンサーマーケティングプラットフォームの活用がおすすめです。
参考:https://mediakix.com/blog/marketing-during-a-recession-examples-strategies/
https://trend.io/blog/influencer-marketing-case-studies