米国マーケティング会社「TopRank Marketing」とインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「Traackr」は、世界の有名ブランドの多くを担当するマーケターから収集されたデータに基づいて実行可能なアドバイスをまとめたインフルエンサーマーケティングレポート「Influence 2.0」の最新版を2018年10月に発表しました。
Influence 2.0の研究チームは同レポートをアップデートするにあたり、次のような「インフルエンサーマーケティングの中の人たち」にインタビューを行いました。
・ブランドのエグゼクティブ
・インフルエンサーマーケティング代理店
・インフルエンサーマーケティング技術ベンダー
・100人以上のインフルエンサー
インフルエンサーマーケティングのキーパーソンとの会話で見えてきたのは、「グローバルなインフルエンサーマーケティングの推進」という考え方です。そして、インフルエンサーマーケティングをグローバル化する上で重要な役割を果たすのが、特定の地域で活躍するローカルインフルエンサーです。
今回は、インフルエンサーマーケティングのグローバル化とローカルインフルエンサーの関係について事例を交えて説明します。ローカルインフルエンサーとのタイアップは、企業が海外市場のマーケティング目標を達成するための有効な手段になっています。
目次
- ローカルインフルエンサーとは?
- インフルエンサーマーケティングのグローバル化とは?
- ローカルインフルエンサーとタイアップするメリット
- 豪州ランジェリーブランド「Carys Martin」の事例
- 事例から学べること
- まとめ
ローカルインフルエンサーとは?
ローカルインフルエンサーは特定の地域を拠点に生活し、その地域の住民に対して強い影響力を持つタイプのインフルエンサーです。相対的にフォロワーは少なく、人によっては1,000人未満の場合もありますが、地域密着型のローカルインフルエンサーはフォロワーと深い信頼関係で結ばれています。
ローカルインフルエンサーが活躍するのは、ニューヨークやロサンゼルスといった大規模都市ではなく、地方都市や、田舎の小さな町が中心です。そのような場所では、市長や牧師、町で有名なレストランのシェフなどが「インフルエンサー」です。
ローカルインフルエンサーは、特定の分野に関する専門知識を武器にするのではなく、地域のコミュニティーと強い結びつきを持ち、地域のことを良く知っているという理由で自然とインフルエンサーになるのです。
インフルエンサーマーケティングのグローバル化とは?
インフルエンサーマーケティングのグローバル化とは、海外市場におけるマーケティング目標達成のためにローカルインフルエンサーの影響力を活用して戦略を強化する方法です。昨今、あらゆるブランドが海外市場進出を目指していますが、地域によって消費者のニーズや興味の対象、購買行動は大きく異なります。
海外進出を阻むローカライズ化の壁
企業のマーケティングや営業チームは、「アジア」「ヨーロッパ」のように地域ごとに分かれていることが多いですが、同じアジアであってもインドネシアとベトナムでは同じ戦略が通用しない場合があります。
さらに、同じ国であっても消費者の性質は地域によって異なり、企業がグローバル化を目指すにあたって最も大きな壁となるのが「ローカライズ(地域化)の難しさ」と言えます。
そこで力を発揮するのが、地域に密着して活動し、特定のコミュニティーに対して強い影響力を持つローカルインフルエンサーです。
ローカルインフルエンサーとのタイアップは、地域密着型でビジネスを展開する企業だけではなく、グローバル展開を目論む企業が海外市場のマーケティング目標を達成するための有効な手段になっています。
世界的有名企業が語るローカルインフルエンサーの有用性
グッチ・ビューティ部門のグローバルインフルエンサーマーケティング副担当主任であるBruna Scognamiglioさんは、ローカルインフルエンサーがグローバルなインフルエンサー戦略の鍵を握る理由について次のように話しています。
「人々は自分の住んでいる場所に近いローカルインフルエンサーと繋がる傾向にあります。ミレニアル世代は本物のメッセージに非常に関心を持っているため、専門知識があって特別な話題について独自の視点を持っている人々の声は、そのトピックに興味を持っているミレニアル世代に大きく影響を与えます。彼らミレニアル世代は必ずしも世界の主要なインフルエンサーだけに向き合っているとは限りません。」
Influence 2.0の研究チームが見出した最新のインフルエンサーマーケティングトレンドは、彼女の見解を反映しています。昨今、多くの先進企業がグローバルなインフルエンサーマーケティングを実践し、多くのマーケターが「グローバルインフルエンサーマーケティングのベストプラクティスはローカルインフルエンサーの活用」だと考えています。
これを可能にするために、ますます多くの企業が地域レベルまたは国レベルのローカルチームによって、「共通のインフルエンサーマーケティング基準」を確立するために、グローバルの中核的拠点の設立を行っています。
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ローカルインフルエンサーとタイアップするメリット
インフルエンサーマーケティングを実践している企業がローカルインフルエンサーとタイアップすると次のようなメリットがあります。
・地域が限定されたサービスの紹介ができる
・ピンポイントで新店舗のプロモーションができる
・オーディエンスがインフルエンサーをより身近に感じられる
・企業、インフルエンサー、オーディエンスの間に長期的な関係性が構築される
地域が限定されたサービスの紹介ができる
インフルエンサーマーケティングで有名インフルエンサーとタイアップすると幅広いオーディエンスにリーチできるというメリットがありますが、住民の数が10,000人程度の小さな町に対してプロモーションを実施したい場合は、狭いエリアで強い影響力を持つローカルインフルエンサーとのタイアップの方が効果的です。
オーディエンスの住む地域に特化した情報であればなおさら、インフルエンサーが発信する情報や、インフルエンサー自身にも興味を持ってもらいやすくなります。「地域限定の情報 × 地元のインフルエンサー」という組み合わせが、企業のインフルエンサーマーケティングを強力に後押しします。
ピンポイントで新店舗のプロモーションができる
ローカルインフルエンサーは、地域のイベントなど限定されたエリアについての情報を発信することができますが、インフルエンサーマーケティングにおいてその効果が最も発揮されるのが新店舗のオープンに関する情報を発信する場合です。
地元で展開するスーパーマーケットのチェーン店や、コンビニの限られた店舗のみで使用できるクーポンなど、特定の地域にしか関係のない情報を幅広いオーディエンスに発信しても売上にはあまり繋がりません。
また、地方自治体の公共サービスや選挙なども、その情報を必要としているのは地域住民だけです。ローカルインフルエンサーよりもさらに狭いエリアに密着したローカルインフルエンサーとタイアップしたインフルエンサーマーケティングは、このような情報を発信するのに適しています。
地域限定の情報は未だに地元の情報誌や掲示板などに頼っているケースが多いので、オンラインで地域の情報を得られることは住民にとってもメリットになります。
オーディエンスがインフルエンサーをより身近に感じられる
個人のインスタグラムアカウントの場合、フォロワーとフォローされている人は、同じくらいお互いの日常生活に興味があります。
個人のインスタグラムユーザーがフォローしている相手は、近所の人や、自分を担当してくれる美容師、同じヨガのクラスにいる友達かもしれません。ローカルインフルエンサーはまさにその人たちと同じような存在で、一般の人が個人的なレベルで関わりを持つ相手です。
ローカルインフルエンサーは、自分たちがインフルエンサーだと自覚しておらず、地域における自分の影響力も理解していない場合があります。だからこそ、ローカルインフルエンサーは、規模の大きい有名インフルエンサーとは全く違うレベルの信頼感をオーディエンスに与えることができます。
インフルエンサーマーケティングは信頼関係がとても大切なマーケティング手法です。「同じ地域に住んでいる」という共通点がインフルエンサーとオーディエンスの距離をぐっと縮め、意見を聞いてもらいやすい状態になります。それによって、インフルエンサーマーケティングがより効果的になるのです。
企業、インフルエンサー、オーディエンスの間に長期的な関係性が構築される
ローカルインフルエンサーという考え方自体は比較的新しいものですが、そもそも「マーケティング」という考え方の最も古い形式の一つがローカルインフルエンサーと言えます。それは、彼らの立ち位置とオーディエンスとの関係性が「口コミ」に近いものだからです。
ローカルインフルエンサーとタイアップすると、インフルエンサーとオーディエンスのどちらにとってもより自然発生的で長く続く関係を築くことができます。また、企業は一度関係性を築いたインフルエンサーとその後再びインフルエンサーマーケティングでタイアップすることが容易になります。
ローカルインフルエンサーマーケティングは、企業、インフルエンサー、オーディエンスが強い結びつきを持ち、Win-Win-Win の関係になる手法と言えます。
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このように、インフルエンサーマーケティングにおいて企業がローカルインフルエンサーとタイアップすると様々なメリットがあります。
インフルエンサーマーケティングは、有名人の知名度を利用した企業広告とは全く異なり、インフルエンサーとフォロワーの密なコミュニティーにブランドが加わることによって効果を発揮するマーケティング手法と言えます。
この戦略は、新規市場を開拓しようと試みているグローバル企業にも有効です。新規市場を開拓するためには、ユーザーリサーチ、マーケティング戦略の最適化など、様々なハードルを乗り越えなければなりません。
インフルエンサーマーケティング戦略の一環としてローカルインフルエンサーとタイアップすることによって、企業と新しい地域の顧客が結びつくきっかけができます。
豪州ランジェリーブランド「Carys Martin」の事例
ローカルインフルエンサーは、自分たちが暮らしている地域を愛し、地域の発展に貢献したいという思いから、地元に新しくオープンした店の情報などを発信しています。インフルエンサーマーケティングにおいて、ローカルインフルエンサーとのタイアップは効果的な手法として注目されています。
ここで、ローカルインフルエンサーを活用して特定の地域でのブランド認知度アップに成功した、オーストラリアのランジェリーブランド「Carys Martin」のインフルエンサーマーケティング事例を紹介します。
自身の名前をブランド名に用いているCarys Martinさんは、オーストラリアのブリスベンでCarys Martinのプロモーションに協力してくれるローカルインフルエンサーを探し出し、イベントや、インフルエンサーの自宅でランジェリーのフィッティングセッションを実施し、その様子をインスタグラムにアップしてもらいました。
キャンペーンのゴール
地域のコミュニティーでブランド認知度を向上させる
地域のコミュニティーとの繋がりを構築する
売上を増加させる
キャンペーンの戦略
ファッション、美容、ライフスタイルなどの分野で活躍するローカルインフルエンサーとのタイアップにより、パーソナルフィッティングとCarys Martinさんのスタイリングセッションの利点を感じてもらう。
キーとなるプラットフォーム
インスタグラム
キャンペーンの内容
・36名のインフルエンサーとタイアップ
・90件以上のコンテンツを制作
キャンペーンの結果
・ブリスベンとその周辺に住む212,980人のリーチに成功
・ソーシャルメディアの拡大
・グループでの予約拡大、ロイヤル顧客の確立、売上の拡大
インフルエンサーマーケティングによってブランドの認知度が拡大し、地元のファッション業界での立ち位置が確立されたことにより、新商品を紹介し、コラボレーションや新しいパートナーシップを提携するためのビジネスの機会を提供してくれるオフラインネットワークが構築されました。
インフルエンサーマーケティングにおいて、ローカルインフルエンサーは単にブランドの「広告塔」ではなく、将来的なビジネスパートナーになり得るのです。
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事例から学べること
ローカルインフルエンサーを活用したインフルエンサーマーケティングでは、オーディエンス・インフルエンサー・ブランドの三者が関係性を構築し、直接顔を合わせる繋がりが必要不可欠です。
今回の事例では、Carys Martinさんによるランジェリーのフィッティングとローカルインフルエンサーの情報発信によって、地元に「Carys Martin」のコミュニティーが出来上がりました。
Carys Martinさんはインフルエンサーマーケティングによって繋がりができたインフルエンサーとビジネス上での関係を続け、新商品のプロモーション、ブランドの露出の拡大、ネットワークの構築とリーダーシップを任せるなどのタイアップを定期的に行っています。
海外市場への進出を目論む企業は、複数のローカルインフルエンサーとタイアップし、今回の事例のような戦略をターゲットとなる市場で水平展開することによって効率的にプレゼンスを獲得することができます。
まとめ
今回は、インフルエンサーマーケティングのグローバル化とローカルインフルエンサーの関係について事例を交えて説明しました。
ローカルインフルエンサーとのタイアップはグローバル化を目指す企業のインフルエンサーマーケティングの成功の鍵と言えます。
今回紹介したランジェリーブランド「Carys Martin」の事例では、オフラインイベントやインフルエンサーの自宅を訪れてのフィッティングセッションなど、地域密着型だからこそできる施策がたくさん盛り込まれていました。
また、キャンペーンが終了した後も、企業・インフルエンサー・オーディエンスの関係性が続きやすいのもローカルインフルエンサーとタイアップしたインフルエンサーマーケティングの特徴です。ローカルインフルエンサーとのタイアップを複数展開することによって、ターゲットとなる地域で持続可能なネットワークを構築することができます。
ただし、フォロワーの少ないインフルエンサーは自力で見つけるのが困難で、地域限定のローカルインフルエンサーを見つけるとなるとなおさら難しくなります。一番確実な方法は、信頼のおけるインフルエンサーマーケティングプラットフォームやエージェントにインフルエンサーの選定を依頼することです。
参考:http://www.traackr.com/blog/tracking-the-evolution-of-influence-2-0
http://www.traackr.com/blog/tracking-the-evolution-of-influence-2-0
https://blog.scrunch.com/australianlingerie-casestudy
http://tweetchat.com/social-trends/how-to-increase-sales-with-influencer-marketing-on-instagram/
http://www.mattr.co/use-hyperlocal-influencers/