近年、高級不動産業界では、ソーシャルメディア上でインフルエンサーとタイアップしたキャンペーンを展開して話題作りをする企業が増えています。
高級不動産のように高額な買い物をする場合、企業以外の第三者の意見が非常に重要になります。フォロワーにとって親友や家族のような存在であるインフルエンサーからの「おすすめ」は、フォロワーの購買決定に大きな影響を与えます。
高級不動産業界の一般的なマーケティング手法といえば、「バス停や街の掲示板などを利用して物件の広告を掲載し、オープンハウスに出向いてもらう」というものでした。不動産業界の中には、日曜日の午後にたまたま近くを通りかかって見学するような従来のオープンハウスを「退屈だ」と感じている人もいます。最近では、「土曜日の夜にセルフィー(スマートフォンの自撮り)パーティー」といった、インフルエンサーとタイアップした新しい形のオープンハウスを開催する企業が増えています。
今回は、高級不動産業者のインフルエンサーマーケティング事例を2つ紹介します。
1. ニューヨークのデベロッパー「Two Trees」の事例
2. ロサンゼルスの不動産会社「Douglas Elliman」の事例
高級不動産を売るのにインフルエンサーマーケティングが有効である理由はこちらの記事にまとめてありますので、併せてご覧ください。
おすすめ記事:高級不動産を売るのにインフルエンサーマーケティングが有効な理由
目次
1. ニューヨークのデベロッパー「Two Trees 社」の事例
ニューヨークを拠点とするデベロッパーである「Two Trees 社」は、インフルエンサーの Tavi Gevinson さんとタイアップしてキャンペーンを実施しました。Tavi Gevinson さんは、彼女が12歳の頃に立ち上げたブログで有名になったファッションリーダーです。
Two Trees 社は、Tavi Gevinson さんの他にも複数のインフルエンサーにブルックリンの高級マンション「300 Ashland」に実際に住んでもらい、300 Ashland についてのコンテンツを投稿してもらいました。Tavi Gevinson さんは Instagram に50万人以上のフォロワーを抱えていて、彼女のような有名人が自身の住所を公にしてインフルエンサーマーケティングを実施することは非常に稀と言えます。
Tavi Gevinson さんは #300AshlandPartner のハッシュタグを付けて、300 Ashland に関するコンテンツを Instagram に定期的に投稿しました。また、彼女はマンションの公共スペースで「タグセール(不要品に値札を付けて売るイベント)」などのイベントも開催しました。このイベントはマンションの住民に向けたもので、低所得者の生活を向上させることを目的とした NPO である「Housing Works」の収益のために実施されました。
Two Trees 社のアセットマネージメント責任者である Brian Upbin さんは、「今回のキャンペーンはマンションを紹介するのにとても良い方法だと思いました。タイアップしたインフルエンサーは、新しい住居での生活を楽しみながら質の高いコンテンツを発信し続け、住民のためにイベントを企画してくれるでしょう。」 と話しました。
Two Trees 社と2年間のタイアップ契約を締結した Tavi Gevinson さんは次のように話しました。「私は自宅やマンションの周りの写真をたくさんシェアしてきました。それは私にとって難しいことではありませんでした。私にとっても Two Trees 社にとっても今回のキャンペーンは新しい試みでしたが、Two Trees 社とのタイアップにとてもワクワクしています。」
Tavi Gevinson さんと Two Trees 社は今回のキャンペーンのインセンティブについて明らかにしませんでしたが、Two Trees 社は、彼女がマンションの賃料を支払い、同社は彼女にキャンペーンのインセンティブを支払ったと語りました。
インフルエンサーが自身の生活の中でクライアントの商品やサービスを紹介することはよくありますが、自身の住所を公にしてプロモーションを行うという今回のキャンペーン手法は非常に斬新でした。高級マンションでの日常生活で Tavi Gevinson さんが撮影した「インスタ映え」する写真の数々はフォロワーの注目を集め、多い時には1つのコンテンツに1万件以上のいいね!が付きました。
2. ロサンゼルスの不動産会社「Douglas Elliman」の事例
ロサンゼルスにある1590万ドル(約17億円)のマンションの部屋で、ある盛大なパーティーが開かれました。パーティーが行われた部屋は、ゴールドの壁にゴールドのバスタブなど、ソーシャルメディアで目を惹く写真が撮れるような様々な仕掛けが施されていました。
このパーティーは、新しい形の高級マンションの「オープンハウス」です。17億円のマンションの部屋についてソーシャルメディア上で話題を拡散するため、従来のオープンハウスの代わりに「セルフィー(スマートフォンの自撮り)パーティー」が開催されました。
キャンペーンを企画した Alexander Ali さんは、「キャンペーンのゴールは100名の参加者で10万インプレッションを獲得することでした。」と話しました。部屋の写真を撮ってソーシャルメディアでシェアしてもらうことを目的としたこのパーティーの招待状は、不動産業者、インスタグラマー、アーティストなどに送られました。パーティーの参加者は、結果的に約150名になりました。
パーティーでは食事も提供され、Alexander Ali さんは、レストランの「Nobu」に提供してもらった寿司ロールと、マカロンを生み出した「ラデュレ」が制作したマカロンタワーを指さしながら、「全ての食事がフォトジェニックです。」と話しました。
また、ルーフデッキではカラフルな LED ライトによって照らし出された会場でダンスパーティーが行われました。一連のパーティーの様子は New York Times に取り上げられ、話題になりました。
これまでの高級不動産業界のオープンハウスは、不動産を購入する気がない人も好奇心から多く訪れていました。今回の事例では、インフルエンサーとタイアップしたセルフィーパーティーを企画して業者側が招待客を選ぶことによって、従来のオープンハウスのデメリットを克服しました。
まとめ
今回は、高級不動産業者が主催するオープンハウスのインフルエンサーマーケティング事例を2つ紹介しました。
『高級不動産を売るのにインフルエンサーマーケティングが有効な理由』の記事でも説明した通り、高級不動産業界はインフルエンサーマーケティングと非常に相性が良い業界と言えます。これまで、バス停の広告や掲示板などを利用して物件を紹介してオープンハウスを開催するという手法を取っていた高級不動産業界にとって、インフルエンサーマーケティングは論理的な次のステップです。
ニューヨークのデベロッパー「Two Trees 社」の事例では、インフルエンサーと2年間の契約を結んで不動産物件に住んでもらうという今までにない手法で、物件のリアルな魅力を存分にオーディエンスに伝えることができました。
また、ロサンゼルスの不動産会社「Douglas Elliman」の事例では、思わず拡散したくなるような豪華な内装を施した部屋を用意し、ソーシャルメディアを通じて幅広いオーディエンスにリーチすることに成功しました。
ロサンゼルスの「セルフィーパーティー」を企画した Alexander Ali さんのように、従来の手法にとらわれない人々がインフルエンサーマーケティングを業界に持ち込んだことにより、これまで「近所の人たち」に限られていた高級不動産のターゲット層が一気に広がりました。
インフルエンサーとのタイアップキャンペーンが取り入れられたことによって、不動産業界のマーケティング手法は形を変えつつあります。今後は、インフルエンサーが発信した Instagram のコンテンツを目撃したオーディエンスが高級不動産の潜在顧客になるケースが増えてくるでしょう。
おすすめ記事:高級不動産を売るのにインフルエンサーマーケティングが有効な理由
参考:https://www.nytimes.com/2018/03/19/style/hashtag-open-house.html https://www.apartmenttherapy.com/la-instagram-open-house-luxury-home-sale-257406 https://www.thecut.com/2017/03/celebrity-sponcon-tavi-gevinson-advertises-her-own-address.html https://www.lucidpress.com/blog/5-influencer-marketing-strategies-real-estate