アメリカから生まれた「母の日」は、日本でもお馴染みのイベントです。母の日が近づくと、多くのアメリカ国民がジュエリーや花などの特別な贈り物を購入します。
全米小売業協会は、2018年に母の日を祝うアメリカ国民は全体の86%、母の日に使う金額は一人当たり180ドル(約1万9800円 / 1ドル110円計算)と予測しました。そして、全体の35%がデパート、31%がオンライン、29%が花屋やジュエリーショップなどの専門店で母の日のための贈り物を購入するという結果が出ています。
今回は、P&G のヘアケアブランド「Herbal Essences」と、オンラインで花の宅配サービスを提供している世界最大級のブランド「Teleflora」による母の日のインフルエンサーマーケティング事例を紹介します。
母の日は、女性向けの商品を扱っているブランドにとってマーケティングプロモーションの絶好のチャンスです。日本で行われている母の日のキャンペーンといえば、家族から花束をプレゼントされて喜んでいるお母さんの姿が表現された TV コマーシャルや、カーネーションの無料配布などが一般的ですが、今回紹介する2つのブランドのキャンペーンは、従来の「母親の在り方」について社会に疑問を投げかけるという非常に興味深い内容になっています。
目次
Herbal Essences のインフルエンサーマーケティング事例
「母の日」と P&G のヘアケアブランドである「Herbal Essences」は、一見あまり関連がないように思えますが、Herbal Essences は「女性にパワーを与えるブランド」としての認知を向上させるために、女性が主役になる母の日に合わせてインフルエンサーキャンペーンを実施しました。
今回のキャンペーンで、Herbal Essences は妊娠中の女性にフォーカスしました。女性は妊娠すると、「重いものを持つべきではない」「激しい運動は控えた方がいい」など、行動範囲が制限され、「できない事が増える」というのが世間一般の考え方です。ところが、実際には、妊娠前と同じように仕事や家事をこなし、妊娠する前よりも精力的に人生を楽しんでいる女性がたくさんいます。Herbal Essences は、そんな女性たちにフォーカスして「Pregnant Women Can(妊娠中の女性ができること)」というキャンペーンを展開しました。
キャンペーンをプロモーションするために、Herbal Essences はニューヨークでイベントを実施し、14名の Instagram インフルエンサーとタイアップしました。インフルエンサーはキャンペーンの共通ハッシュタグである #PregnantWomenCan を付けて、それぞれ1~2個のコンテンツを投稿しました。
妊娠中であっても、ランニングや仕事などそれぞれの人生を楽しむ女性たちの姿を通じて商品をプロモーションすることによって、Herbal Essences が女性にパワーを与え、積極的に人生を楽しむ全ての女性をサポートするブランドだということをアピールしました。
キーインフルエンサー:
@spanglishfashion — フォロワー数 747,000
@hillaryscottla — フォロワー数 543,000
@officiallyjasmin — フォロワー数 55,200
@tiffany3366 — フォロワー数 32,200
「ママブロガー」でもある Instagram インフルエンサーの Tiffany さん (@tiffany3366) は、今回のキャンペーンの中でもキーとなるインフルエンサーでした。彼女は28歳のシングルマザーで、Herbal Essences は、Tiffany さんの娘である Cora ちゃんを抱いた写真を Herbal Essences のヘアケア商品と共に投稿してもらいました。
Tiffany さんはコンテンツのキャプションで、「Cora がお腹にいることが分かった時から、私の人生は大きく変わりました。私は一瞬にして、強く、パワフルな女性に変化したのです。」 と述べました。彼女のコメントによって、妊娠による彼女の精神的な成長と Herbal Essences のブランドイメージが関連付けられました。また、個人的な経験をコンテンツで表現することによって、オーディエンスにブランドをより身近に感じてもらうことに成功しました。
今回のキャンペーンで Herbal Essences がシングルマザーである Tiffany さんとタイアップしたことによって、Herbal Essences というブランドが、「両親と子供で構成された一般的な家族」だけではなく、全ての女性のためのブランドだということをアピールしました。また、Tiffany さんとのタイアップを通じて、「母親になるためのルールはない」「Herbal Essences は特別な誰かのために作られた訳ではない」というブランドからの2つのメッセージをオーディエンスに届けました。
Tiffany さんは、オーディエンスに Herbal Essences のアカウントをフォローし、オーディエンスが妊娠中に他の人から「できない」と言われた事と、それをどのように克服したかをキャンペーンハッシュタグである #PregnantWomenCan を付けてシェアすることを呼びかけました。オーディエンスと同じ境遇にあるインフルエンサーの呼びかけは、CTA(Call To Action = 行動喚起)を高める上で非常に効果的でした。Tiffany さんの呼びかけに答えてコメントを投稿することに時間を割いたオーディエンスの脳裏には Herbal Essences というブランド名とブランドイメージが刻まれ、それが将来的に商品購入に繋がるのです。
Teleflora のインフルエンサーマーケティング事例
花の宅配サービスを提供する Teleflora にとって、母の日はインフルエンサーとタイアップしたキャンペーンを実施するベストなタイミングでした。Teleflora は、母の日に合わせて「Love Makes A Mom」というキャンペーンを企画しました。
キャンペーンのメインとなる動画には、母親に代わって妹を育てる姉や、同性カップル、ダウン症の娘を育てる母親など、一般的な家族とは少し違った形の4つの家族が登場しました。Herbal Essences と同様に、Teleflora が企画したキャンペーンは、従来の母親や家族に対する「こうあるべき」という考え方に疑問を投げかける内容でした。
そして、Teleflora はキャンペーンをプロモーションするために7名の Instagram インフルエンサーとタイアップしました。そのほとんどが10万人以上のフォロワーを抱える「マクロインフルエンサー」で、シンガーソングライターの Jason Mraz さん(@jazon_mraz)はTeleflora の100ドルのギフトカードが当たるキャンペーンを実施しました。それぞれのインフルエンサーは、コンテンツの投稿時にキャンペーンの共通ハッシュタグである #LoveMakesAMom と #LoveOutLoud を付けました。社会性のあるテーマを扱った Teleflora のキャンペーンは、AdWeek や Fortune など多くのメディアに取り上げられ、話題を呼びました。
キーインフルエンサー:
@jazon_mraz — フォロワー数 1,300,000
@mrsguptasquared —フォロワー数 474,000
@happygreylucky — フォロワー数 321,000
@marylauren — フォロワー数 304,000
「ママブロガー」である Sina Duvinage さん (@happygreylucky) は、 彼女の娘のイザベラちゃんが Teleflora のフラワーアレンジメントの後ろに隠れている写真を Instagram に投稿しました。Sina Duvinage さんは、普段から物を使って顔を隠した写真を投稿していて、フォロワーが求める「Sina Duvinage さんらしい」写真を今回のキャンペーンのコンテンツにも上手に活用しました。
Sina Duvinage さんはコンテンツのキャプションで、「心を込めて作られた Teleflora のフラワーアレンジメントは、素敵な花瓶に入った状態で地元の花屋さんが直接届けてくれました。」と述べました。Teleflora のフラワーアレンジメントのデザインの美しさを写真でアピールし、商品の情報をキャプションで紹介することによってオーディエンスに Teleflora で商品を購入することを促しました。
2つの事例から学べること
今回の Herbal Essences と Teleflora の事例では、どちらのブランドも「母親とは何か」という社会的なメッセージをオーディエンスに投げかけ、キャンペーンを通じて多様性についてのブランドの考え方を発信しました。
この手法はマーケティングを行う上で非常に効果的であることが証明されています。ボストンに拠点を置く「Cone 社」の調査で、消費者の87%が自身の「価値観」に基づいて購入するブランドを決定し、ミレニアル世代(1980年頃から2005年頃にかけて生まれた世代)の55%が、自分に関係のある問題をサポートしてくれる企業の商品を買いたいと思っていることが分かりました。
Herbal Essences と Teleflora のキャンペーンの事例では、初めにキャンペーンの核となる動画を制作しました。いずれのブランドの動画にも、商品に関する説明は含まれていません。その代わりに様々な「母親」を動画に登場させ、ブランドの価値観をオーディエンスに共有しました。その価値観に共有したオーディエンスがブランドに好感を持ち、いずれは商品の購入に繋がる、というのが今回の2つの事例のマーケティングストーリーです。
また、動画と Instagram で異なる手法を取ったのも今回のキャンペーンの大きな特徴です。動画では、ブランドの価値観をインフルエンサーを通じて発信しました。そして、Instagram ではインフルエンサーが商品と共に写っている写真を投稿してもらい、ダイレクトに商品をプロモーションしました。動画と Instagram を結び付けたのが、キャンペーン共通のハッシュタグです。ハッシュタグをうまく活用することによって、「ブランドの価値観を共有する」「商品のプロモーションをする」という目的を同時に果たしました。
おすすめ記事:Instagram の流行ハッシュタグをインフルエンサーマーケティングに活用する方法
まとめ
今回は、P&G のヘアケアブランドである「Herbal Essences」と、花の宅配サービスを提供している「Teleflora」の母の日のインフルエンサーマーケティング事例を紹介しました。
2つのブランドはキャンペーンの核となる動画を制作し、ブランドが持つ価値観をオーディエンスに向けて発信しました。そして、Instagram ではインフルエンサーに商品をプロモーションしてもらいました。
ブランドの価値観と商品のプロモーションを異なるプラットフォームで発信し、共通のキャンペーンハッシュタグで結びつけることによって、消費者にブランドのイメージを印象付け、商品をプロモーションすることに成功しました。
インフルエンサーとタイアップしたキャンペーンの効果が注目されているのは、多くの消費者が自分の価値観に合うブランドを選択するようになってきた事が大きな理由の一つかもしれません。商品を直接プロモーションするだけでなく、ブランドの価値観をオーディエンスに発信する「アンバサダー」の役割を果たすインフルエンサーに対する需要は今後益々増えていくことでしょう。
参考:http://mediakix.com/2018/05/mothers-day-marketing-instagram-influencers/#gs.772zad