「Nielsen 社」が2015年に発表した「広告の信頼度」に関する調査で、北アメリカの消費者の66%が「他の消費者がオンライン上に投稿した意見は信用できる」と答えました。テレビ、新聞などを通じた企業広告は以前ほど影響力を持たなくなり、多くの消費者がオンライン上の他の消費者の意見を参考に購買決定をしています。テレビ、新聞だけではなく、オンラインやSNS上の企業広告についても同じことが言えます。
従来の企業広告に代わって消費者の購買行動に大きな影響を与えているのが「口コミ」で、口コミを活用した代表的なマーケティング手法であるインフルエンサーマーケティングに参入するブランドが年々増加しています。上記の調査で、92%のマーケターが「Instagram 上でのインフルエンサーマーケティングの予算を前年よりも拡大する」と答えました。
ブランドがインフルエンサーマーケティングを実施する上で、一つの疑問が浮かび上がります。
「インフルエンサーマーケティングは自前で実施するべきか外注で実施するべきか?」
インフルエンサーマーケティングを実施する方法は主に2つあります。
・自社でインフルエンサーマーケティングの専門チームを立ち上げ、インフルエンサーの手配からキャンペーンの実施、効果測定までを全て自前で実施する
・インフルエンサーマーケティングプラットフォームにキャンペーンの実施を依頼し、ブランドはキャンペーンの目標やパフォーマンスを管理するマネージャーのみを自社に設置する
ブランドは、強力なマーケティング手法であるインフルエンサーとのタイアップキャンペーンを実施するにあたって、その効果を最大化するためにベストなアプローチ方法を考えなければなりません。
今回は、インフルエンサーマーケティングを実施する方法を考える上でおさえておきたいポイントと、キャンペーンを自前で実施する場合と外注する場合のメリットとデメリットを、前編と後編に分けて詳しく説明します。
目次
-
前編
- 実施方法を考える上でおさえておきたいポイント
- 自社で実施する場合のメリット
- 自社で実施する場合のデメリット
- まとめ
- 外注する場合のメリット
- 外注する場合のデメリット
- 自前と外注のメリットを活用する
- まとめ
後編
実施方法を考える上でおさえておきたいポイント
ブランドがインフルエンサーマーケティングの実施方法を考える上で押さえておきたいポイントは「費用」と「時間」です。自前でインフルエンサーマーケティングを実施する場合とインフルエンサーマーケティングプラットフォームに依頼した場合の違いを比較してみましょう。
費用
インフルエンサーマーケティングに関わらず、ブランドがマーケティングキャンペーンを実施する上で一番最初に考えるのが費用に関することです。最も費用を抑えてインフルエンサーマーケティングを実施する方法は、自社で専門のチームを立ち上げ、インフルエンサーのみに謝礼を支払う方法です。ただし、マーケティングチームを新規で立ち上げること自体に相当のコストがかかるという点に注意が必要です。
オンライン求人サイトの「Glassdoor 社」と「米国人材マネジメント協会」による2つの調査では、人材を1人リクルートするのにかかるコストは4000ドル程度(約44万円 / 1ドル110円計算)という結果が出ています。インフルエンサーマーケティングのプロを雇うとなると金額はさらに膨らみます。また、新人のトレーニング、給料など、雇用後にも当然費用が発生します。
また、「インフルエンサーに支払う適切なインセンティブが分からない」など、自社で専門チームを立ち上げた場合は費用についての悩みが増えるのも事実です。
一方、インフルエンサーマーケティングプラットフォームに依頼する場合は、人材のリクルート、給与などの費用はかかりません。多くの場合、次のような項目によって費用が変わります。
・ インフルエンサーの種類(フォロワー数やジャンルの違い)
・コンテンツの必要数
・インフルエンサーの経験
インフルエンサーマーケティングプラットフォームの利用料金は様々ですので、自社で実施した場合との料金比較ができるようにしておくとベストです。
時間
インフルエンサーマーケティングを実施する上で2つ目の大きなポイントになるのが「時間」です。自社でインフルエンサーマーケティングを実施する場合は、マーケティングチームを立ち上げるまでの時間、そして、キャンペーンのプロセスにかかる時間について考える必要があります。
2016年に「米国人材マネジメント協会」が発表した内容によると、自社の専門チームの人材を確保するまでにかかる時間は平均36日と言われています。
インフルエンサーマーケティングプラットフォームに仕事を依頼した場合、インフルエンサーの手配、キャンペーンのマネージメントやクリエイティビティはエージェントに任せることができます。時間という面で考えると、インフルエンサーマーケティングプラットフォームを活用するメリットは大きいと言えます。
このように、ブランドは自社の資源と時間をどの程度インフルエンサーマーケティングに割くことができるのかを判断し、インフルエンサーマーケティングプラットフォームに依頼した場合の費用、時間、そして効果を比較して総合的に判断する必要があります。
インフルエンサーマーケティングを全て自前で実施しているブランドもありますが、多くのブランドがインフルエンサーマーケティングプラットフォームを活用しているのが現状です。それぞれのメリットとデメリットを比較することによってその理由が見えてきます。
おすすめ記事:【よく分かる】やさしいインフルエンサーマーケティング入門 – インフルエンサーの定義~最新事例まで –
自社で実施する場合のメリット
まずは、インフルエンサーマーケティングを自社で実施する場合のメリットについて見ていきましょう。自社で実施する場合、インフルエンサーと直接契約することによって緻密でタイムリーなコミュニケーションが可能になり、キャンペーンがスムーズに進むことが最大のメリットと言えます。
メリット1:オーディエンスについての情報が豊富にある
誰よりも顧客のことを良く知っているのはブランド自身です。オーディエンスが何に関心を持ち、どのような情報を求めているのかを他の誰よりも理解しているので、その情報をキャンペーンに適切に反映できます。また、ブランドによってはターゲットとなるオーディエンス層が複雑なケースもあります。
例えば、毎月定額で化粧品のサンプルセットを郵送するサービスを行っている「Birchbox 社」は、「美容についてそれほど強い関心はないが、毎月化粧品サンプルが送られてくるサービスは利用しても構わない」という独特なターゲット層を相手にビジネスを展開しています。
Birchbox 社はインフルエンサーマーケティングを自社で実施しており、PR 部長の Jenna Hilzenrath さんは、「インフルエンサーマーケティングを自社の専門チームで実施することによって、フットワークが軽く、とても実践的で、絶妙なアプローチが可能になります。とはいえ、プロジェクトによってはインフルエンサーマーケティングプラットフォームとタイアップすることもあります。」と話しました。
Birchbox 社のように、インフルエンサーマーケティングを自前で行う部分と外注する部分をうまく使い分けることによってそれぞれのメリットの恩恵を受けることができます。
メリット2:インフルエンサーはブランドとの長期契約を望んでいる
金銭面の安定や、フォロワーへの主張に一貫性を持たせたいという理由から、インフルエンサーは単発契約よりも長期契約を望む傾向が強く、スポーツメーカーの Nike 社のようにインフルエンサーと個別にブランドアンバサダーの長期契約を結んでいるブランドもあります。
インフルエンサーとの長期契約は、ブランドにとってもインフルエンサーにとってもメリットがあります。詳しくはこちらの記事にまとめてありますので併せてご覧ください。
おすすめ記事:インフルエンサーと長期契約を結ぶメリットと注意点
メリット3:インフルエンサーをカスタマイズできる
ブランドはインフルエンサーと長期契約を結ぶことによって、戦略的にテストマーケティングを実施し、 キャンペーンの結果を見ながらブランドにとってベストなインフルエンサーだけを残すことができます。
ただし、自社で立ち上げたばかりの専門チームでインフルエンサーのパフォーマンスを正しく評価するには困難が伴うという懸念もあります。
自社で実施する場合のデメリット
次に、インフルエンサーマーケティングを自社で実施する場合のデメリットについて見ていきましょう。自社で実施する場合には費用や時間の他にも様々な障壁があります。
デメリット1:費用がかかる
自社でインフルエンサーマーケティングを実施する場合の一番のデメリットは費用です。自社で専門チームを立ち上げ、人材を集めて教育し、給与を支払うだけでもかなりの費用がかかります。また、インフルエンサーマーケティングは比較的新しいマーケティング手法なので、専門家を見つけるのも簡単ではありません。
また、大規模な専門チームを設けた後にブランド内で経営戦略の変更があった場合、四半期などの短いスパンではインフルエンサーマーケティングに割いた予算を変更することは困難と言えます。
デメリット2:多くの人員が必要になる
インフルエンサーとタイアップしたキャンペーンを実施するためには少なくとも次のようなプロセスが必要になります。
・ブランドにぴったりのインフルエンサーを探す
・インフルエンサーにコンタクトする
・マネージャーと話をする
・契約交渉する
・CRM (Customer Relationship Management = 顧客関係管理) の戦略を立案する
・キャンペーンの目標、内容を決定する
・キャンペーンを実施する
・キャンペーンの結果を確認する
ブランドは多くの人員をインフルエンサーマーケティングに投じなければなりません。また、キャンペーンを成功させるには消費者と直接関係を築くための人員が必要で、そのための人材教育も必要です。
そして、インフルエンサーマーケティングのプロセスは非常に煩雑で専門的な知識を必要とします。キャンペーンの規模にもよりますが、自前で実施する場合はインフルエンサーマーケティングに知識のあるマーケターを中心とした専門のチームを立ち上げる必要があります。
デメリット3:業界が変化するスピードについていくのは困難
インフルエンサーマーケティング業界のトレンドは常に変化しています。ブランドはその変化に対応していかなければなりませんが、急成長しているインフルエンサーマーケティング業界の最先端のトレンドをキャッチしてそれをリアルタイムでキャンペーンに反映させていくのは非常に困難です。
インフルエンサーマーケティングプラットフォームは、ハッシュタグのトレンド、インフルエンサーの影響力の変化など、業界のトレンドについての情報を豊富に持っています。情報量という面では、インフルエンサーマーケティングプラットフォームに勝るブランドはないでしょう。
デメリット4:キャンペーンの成果を比較できない
自社の専門チームで全てのインフルエンサーマーケティングを実施した場合、手元にあるデータのみでキャンペーンの成果を測定することになります。
インフルエンサーマーケティングプラットフォームはあらゆるインフルエンサーとのタイアップキャンペーンに関するデータを所有しているため、キャンペーンの効果を他の事例と比較しながら客観的に分析することができます。その結果、回を重ねるごとにキャンペーンの内容をブラッシュアップできるのです。
まとめ
今回は、自前でインフルエンサーマーケティングを実施した場合のメリットとデメリットについて説明しました。
自前で実施するキャンペーンは、ブランドが集めてきた自らの「ファン」の情報を基に内容を自在にカスタマイズできるというメリットがある一方、ブランドはインフルエンサーとタイアップしたキャンペーンを実施する上での全ての工程を手探りで行わなければなりません。効果的なキャンペーンを実施できるようになるまでにはかなりの費用と時間がかかると考えられます。
次回は、インフルエンサーマーケティングプラットフォームに依頼した場合のメリットとデメリットについて説明します。
おすすめ記事:インフルエンサーマーケティングは自前か外注か?メリットとデメリット【後編】
参考:https://www.forbes.com/sites/theyec/2018/12/11/influencer-marketing-should-you-outsource-or-do-it-in-house/#3f962e247193
http://mediakix.com/2018/09/influencer-marketing-in-house-pros-and-cons/#gs.1owtyl